2019年度特別研修会

研修部毎年恒例のイベント「特別研修会」が8月24日(土)台東区民会館にて開催された。正午から夕方にかけてランチ会および句会。研修通信俳句会会員有志、火曜・木曜・土曜教室・現代俳句のつどい有志、研修部メンバーなど多数参加。そして通信俳句会第25期講師の山本敏倖先生・松下カロ先生、第26期講師の大井恒行先生・伊藤眠先生、長井寛編集部長ご臨席のもと、盛況のうちに無事終了した。

以下、特別選者6名による高点句の講評。

引きこもる西日の音がコトリとす   植田いく子

◆伊藤→下五「コトリとす」は主人公の何かのきっかけかも知れない。西日の「音」が良かった。◆松下→切迫した取り合わせが良い。◆宮崎→中七下五から引きこもり生活ならではの静けさが汲み取れる。◆山本→下五の捉え方良し。聞こえない音を聞いたところに詩情あり。◆長井→西日の中、誰かの気配を感じたのだろうか。

リラ冷えと書き出しだけは決めてある 門野ミキ子

◆宮崎→「リラ冷え」の斡旋が見事。知的でデリケートな相手方が見えてくる。散文的な書き方も効果的。

この場所もいづれ忘れる葉鶏頭    山﨑加津子

◆大井→上五中七の感慨と下五「葉鶏頭」とが好配合。思いが込められた一句。◆松下→下五に必然性あり。支持が集まるのも納得。

肉球が背中を歩く原爆忌       秋谷 菊野

◆山本→詩的。上五中七の平和、平穏と下五「原爆忌」配合の妙。◆宮崎→何気ない日常の中の「原爆忌」の実感。原爆忌の俳句として新鮮。

流星群も羊の群れも杖で追う     芹沢 愛子

◆山本→上五「流星群も」にポエジー。一句の物語性に惹かれる。◆長井→キリスト教的な世界観。「流星群を操る」という壮大な詩的な世界。

青田中漂ひさうな一軒家       田口  武

◆長井→私は越後の平野で育ったので、この「漂ひさうな」実感としてよく分かる。ある意味、悟りの境地のような一句。

家族というシナリオのまま新茶汲む  宮崎 斗士

◆大井→上五中七の措辞に趣きがある。下五「新茶汲む」がうまくマッチしている。◆山本→疑似家族かも知れない。下五に良きアイロニーあり。

蝸牛あゆむ間違つてはゐない    長谷川はるか

◆大井→中七下五の断定に惹かれた。蝸牛の歩みに自らの歩みも投影している。

幻聴だったかも知れない黒揚羽    吉田 典子

◆伊藤→幻視ではなく幻聴。実にスリリングで素敵な一句。◆大井→作者の思いが素直に出た。◆松下→上手い句。技巧派。◆宮崎→黒揚羽の瞬間の煌めきをうまく捉えた。

完熟の日輪ぐらり冷し瓜       久根美和子

◆長井→暑さをどう表現するか‥‥作者は冷し瓜で安らぐ。上手い上五中七。

この感じ羊水かもと背泳ぎす     西本 明未

◆宮崎→おそらくはプールか海にいる主人公。羊水の安らぎを感じるひととき。下五「背泳ぎす」に意外性があり、作者独特の感覚を受け取る。

秋澄んで魚は水を忘れおり      長井  寛

◆山本→上五「秋澄んで」が効いている。中七下五をうまく際立たせた。

敗戦日の真ん中に置く椅子がある   山本 敏倖

◆宮崎→どなたか戦争で亡くなった方のための椅子だろうか。「真ん中に」がよく働いている一句。

その他の高点句

いつか葉桜今日のことを忘れる日  門野ミキ子

ラムネ玉のころっと本音反抗期   宮崎 斗士

AIが被曝する日のさるすべり   秋谷 菊野

十薬の花深読みこばむ白さです   芹沢 愛子

同意するまた同意するさくらんぼ  植田いく子

夏帽のリボン解けしままねむる   越川ミトミ

短夜や座敷わらしも河童も来(こ)  久下 晴美

米軍のフェンスの高さ沖縄忌    飛田 伸夫

こなごなにしてくださいと蟬の殻  松下 カロ

なお、当日の特別選者の特選句は以下の通り。

長井寛 特選

さよなら八月あまたのうらおもて 大井 恒行

山本敏倖 特選

祭笛つひに琥珀となりにけり   松下 カロ

松下カロ 特選

朝顔や夢にて母を絞め殺す    東  國人

大井恒行 特選

AIが被曝する日のさるすべり  秋谷 菊野

伊藤眠 特選

ここだけの話の弾むゆすら梅   小髙 沙羅

宮崎斗士 特選

熊蟬は樹より大きな声で鳴く   田口  武