平成8年度 第14回現代俳句協会新人賞 大石雄鬼(おおいし・ゆうき)

26歳から俳句を始め、すぐに「陸」入会。2年後同人、現在編集員。また「藍生」に創刊時から入会。
昭和63年埼玉文学賞俳句部門準賞。
平成5年現代俳句協会新人賞佳作。
現代俳句協会会員。

「逃げる」  大石雄鬼

皹の手を人形のやうに置く
カーブミラーに止まつてゐたり焼藷屋
恋猫が佃島より逃げてくる
印籠に野遊の絵のふくれをり
花衣すとんと体より落ちる
鞦韆に足の溺れてゐたりけり
ゆく春を睫毛の多き人とゐる
リンカーンは髯の輪郭朴咲ける
伝書鳩新樹の森へ降りられず
駅ビルの奥に売られてをりし繭
虹立ちてサーカス団員動かざる
夏風邪を火災探知機見てすごす
青柿の瞼を閉ぢてゐるところ
放火魔の話のなかを藪蚊過ぐ
クーラーが鰭をうごかし理髪店
天道虫防弾ガラス下りてくる
鳩の爪黒ずみ祭囃子かな
二の腕に虹のかかりし水族館
木下闇からだを拭けば赤くなり
玉葱に笑窪のありて腐りたる
夏障子破れて森が見えてをり
背に点字浮かんでをりし蟇
雑巾をめくれば蟻の列があり
紙コップより逃げだせず兜虫
螢狩してきし膝に汚れあり
仙人の顔にぶつかるまでは蟆子
簗に魚夢よりこばれ落ちてきし
夏痩せを気球の影のとほりすぐ
ヘアピンが髪に埋もれる原爆忌
谷底のやうなベッドや鶲来る

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。