2017年度 第72回受賞者 恩田侑布子(おんだ・ゆうこ)

俳人、文芸評論家。
・昭和31年(1956年)9月17日静岡市生まれ。
・昭和46年(1971年)静岡高校に在学中、毎日新聞に俳句は飯田龍太選、短歌は高安国世選で入選・特選を重ねる。
・昭和54年(1979年)早稲田大学第一文学部文芸科卒業。種村季弘、池内紀、平賀敬らとの「酔眼朦朧湯煙句会」、草間時彦捌の 連句「木の会」に終会まで所属。攝津幸彦に誘われ「豈」同人。
・平成25年(2013年)芸術・俳句評論集『余白の祭』で第23回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
・平成26年(2014年)国際交流基金により、パリ日本文化会館客員教授として、コレージュ・ド・フランスなどフランス3都市で5講演。
・平成27年(2015年)1月〜平成29年1月まで連載「水、呼び交わす」(『墨』)。
・平成28年(2016年)1月、4月、7月、11月「土のうた」連載(『ひととき』)。
・平成28年(2016年)4月〜「俳句時評」を毎月最終月曜日連載中(『朝日新聞』)。
・平成29年(2017年)3月、第67回芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を『夢洗ひ』により受賞。
 7月、第72回現代俳句協会賞を句集『夢洗ひ』で受賞。
・平成29年7月5日〜 エッセイ「窓辺」を毎週水曜日連載中(『静岡新聞』)。
 
・句集に、『イワンの馬鹿の恋』『振り返る馬』『空塵秘抄』『夢洗ひ』。
 評論集に『余白の祭』。
 共著に『現代俳句ハンドブック』『句会遊遊』『鑑賞女性俳句の世界4』他多数。
・現在、「(あらき)」代表。SBS学苑俳句講師。
 現代俳句協会会員(現代俳句協会評論賞選考委員)、日本文藝家協会会員、国際俳句交流協会会員。
 
 
しろがねの露の揉みあふ三千大千世界(みちおほち)
荒星のはなれ離れの故山かな
筆筒に孔雀の羽や冬深し
冬川のゆくどこまでも天とゆく
一人とは冬晴に抱き取られたる
男来て出口を訊けり大枯野
風呂吹や時間うるむといふことを
越え来るうゐのおく山湯婆(たんぽ)抱く
南無といひそのあとはなし冬日向
冬濤のくずほるるとき抱く碧(みどり)
ゆきゆきてなほ体内や雪女
破魔矢抱くわが光陰の芯なれと
くろかみのうねりをひろふかるたかな
香水をしのびよる死の如くつけ
片かげを滅紫(けしむらさき)に吉野川
素戔嗚尊(すさのを)の眉吹き飛ばす瀑布かな
ころがりし桃の中から東歌
酢牡蠣吸ふ天(あま)の沼鉾(ぬぼこ)のひとしづく
富士浮かせ草木虫魚初茜
百態の闇をまとひて踊るなり
落石のみな途中なり秋の富士
葛湯吹くいづこ向きても神のをり
汝が神のわが神でなき寒さかな
一族の絶えし火鉢を熾しけり
天網は鵲(かささぎ)の巣に丸めあり
長城に白シャツを上げ授乳せり
告げざる愛地にこぼしつつ泉汲む
脚入るるときやはらかし茄子の馬
送火を見る乳足らひし嬰(やや)の如
三つ編みの髪の根つよし原爆忌
吊し柿こんな終りもあるかしら
缶蹴りの鬼の片足夕ざくら
好きなのは青紫蘇、名誉なき男
クメール語大夕焼を沈めたる
あめつちは一枚貝よ大昼寝
椿落つ鏡の中にもう一人
瞑りても渦なすものを薔薇とよぶ
驟雨いま葉音となれり吾(あ)も茂る
月光に緊(し)まりし身体ぶつけ来し
死ぬるまで黙す障子の縦と横
戀絶てば身にしむ檜(ひ)の香なりけり
海百合のかひなの永し冬の戀
この亀裂白息をもて飛べといふ
柱なき原子炉建国記念の日
あはゆきや塔の基壇の彩漆(だみうるし)
爽やかに入り混じりたり貝と砂
なあと云ひさしてたゆたふ櫻炭
冬天に孕んで紅し女郎蜘蛛
わが視野の外から外へ冬かもめ
夭夭とみづまなこにもさくらにも
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。