昭和60年度 第3回現代俳句協会新人賞 波多江敦子(はたえ・あつこ)

昭和8年7月長崎県に生まれる。
「現代俳句勉強会」(理郎)に入会後、昭和53年頃より「渦」へ投句。
昭和55年「櫟」結成に参加。
昭和56年、地元の九州を総括するかたちの「九州俳句」の存在を知り参加。
昭和57年「國」へ参加。
昭和60年2月「渦」を離れる。

昭和55年「渦賞」佳作。
昭和56年「櫟」新人賞。年間賞。
昭和57年「櫟」準賞。
昭和58年「九州俳句賞」。

「帯二本」 波多江敦子

竹伐っていきなり火吹竹となす
手枕をのぼりつめたる野火の炎(えん)
男ざかりの春の七草談議かな
蕗の薹昼は油断をしてをりぬ
桃畠より力瘤消へてゆく
のっそりと父の出てくる桃月夜
桃落ちてまだ納得のゆきかぬる
麦秋は腓(こむら)がへりの次郎かな
三人に水の動かぬ花菖蒲
下駄の緒のゆるみ放しに合歓咲けり
ながながと父の橋ある螢火よ
病歴の一つ二つは揚羽蝶
悪食の鳥と歩の合ふ夏ならむ
夏痩せて紙となる木を育てをり
寺町の蛇のながきを見とどけむ
東(ひむがし)や夢の中まで草を刈る
みぞをちの騒がしくなる曼珠沙華
致死量の毒流れゆく鱗雲
大晩夏髪なと紐なと結ぶべし
ぶだう熟れ別院通りてふがある
浅夢につづく種なし葡萄かな
葡萄一粒ずつの海あり汐騒あり
帯二本ぶだうの蔓に紛れをり
立秋の道違へても登りゆく
能面の笑ひのうつる草紅葉
追信のゆきつ戻りつ草紅葉
左利きゐて芒野の鬼あそび
巻紙のあれよあれよと雁渡る
雁やのっぴきならぬ箸二本
冬の樹に智恵働いてゐたりけり

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。