平成7年度下半期 第46回現代俳句協会賞 岩下四十雀(いわした・しじゅうから)

本名禮次郎。別号鱧(はも)。1913(大正2)東京生れ。
1936(昭11)川端茅舎に就く。
1954(昭29)金尾梅の門の「季節」に入り同人。井口荰子主宰をへて、現在田邊香代子主宰のもと「季節」編集人。
受賞「季節賞」
著書『茅舎浄土巡礼』『茅舎尋常風信覚書』(共著)
句集『長考』
※略歴は受賞時点のものです。


第46回現代俳句協会賞受賞作  岩下四十雀

昏々の長考に入る山椒魚
善人に夏炉を焚かれ逃げられぬ
湯舟にて菖蒲啣えし首なりけり
行々子親きょうだいと吹き千切れ
亀に亀が乗って天意のごときもの
鯉に指吸わせ緑蔭にくからぬ
暴走族流れ星とぞ名告りける
撞木鮫沖にあらわれ大旱
フグ釣れて戦艦ムツの忌の日なり
僧ひとり料亭に待つ湯びき鱧
長虫を見しが今年の一大事
イオー島から遠泳で還ってこい
少年よ癇癪玉をひとつおくれ
蛞蝓の速足死処をあやまつな
桐の花男の寝顔渕となる
浜木綿は野伏と寝たる乱れよう
こおろぎよ南瓜の下は都なれ
萩餅や位牌のお尻撫でながら
かぶら蒸し忘れてはるか人の肌
押し花を展けば臍の緒でありし
秋風の猫が吐きたる毛玉かな
風の貌して風の盆より帰る
秋口のなぜか箒の吊りどころ
藁ぼっちつらぬく棒のこころざし
秋風の一弦琴を二つ置く
鮟鱇を捕りにゆきしが溺れけり
断られたりお一人の鍋物は
初風呂のさら湯は毒と知りながら
寒の底は蠟人形に逢いにゆく
冬眠の鯉の度胆を抜きとらん
手間かけてぬたくる面か冬の蠅
楽屋一同雪掻きに出てしまいけり
抱かんにはみな怒り肩雪女郎
いさぎよく鴨はさよなら一顧なし
仏頭を見すぎ霞をぬけられぬ
関東平野紋白蝶に騎ってゆく
いつとなき松蟬いつとなき樹齢
春の曲女体や琴にのしかかる
長襦袢ずるるずるると蝸牛
赫々と都を落ちる潮まねき
骨壷を購ってひとまずバラ生ける
頬杖のなんど外れる桃祭
向きあっている仏壇と雛壇と
掌に計る桜つぼみはグラムか匁か
花の鵯頭のささくれるまで狂う
流されてみちのくにあり蓴舟
春昼の孔雀に挑む男かな
亀鳴かしすぎるぞ諸君俳兄よ
土筆など古きネクタイみな捨てる
籐椅子にのこすわが形りわが膏