昭和63年度 第35回現代俳句協会賞 金子皆子(かねこ・みなこ1925-2006

大正14年1月8日 埼玉県秩父郡野上村(現在長瀞町)に生まれる。
昭和28年頃から句作
31年 風賞受賞
46年 海程賞受賞
63年4月 句集『むしかりの花』刊行
※略歴は受賞時点のものです。

第35回現代俳句協会賞受賞作  金子皆子

栃の実は夕日の落しゆく冷えか
冬の夜の黒猫菜の花の匂い
つかみ合いの少年釘のよう冬水仙
黒猫よ枯れ枯れてあり紅梅
まんさくやいま山姥の面(おもて)会い
斑雪山小がら一群楽器になって
まんさくの音沙汰に山ぐらしあり
ぼたん雪家籠る少年の声なり
旅の椅子春の入江がここまできている
朝日の早い家の青麦に老婆
菜の花ぼっち田の水鏡花ぼっち
雀らと両手の陽焼け春はゆくかな
海鳥の羽散る海桐(とべら)の花の香なり
海鳥と卯の花風のいろはにほへど
灯りにきている蜻蛉の羽音寝顔
夏闇吹かれ黒猫の青草のひとすじ
獅子頭置かれるいつのまに茶の花
漁網たたまれ鳳凰木の赤い花
白い雲蒲の穂などつかまえている
白い横顔ぎんなんの降るような時間
紅葉山一夜泊りは野兎の湿り
頭悪き日々なり柚子明りときどき
蜜柑の木に蜜柑雲のおんどりもいる旅
京菜一株一抱え歳晩の明星
薬師本尊紅梅黒猫回り道
葡萄の根燃す男たち春大雪
遠きに雪解ネパールの木綿美し
こでまりと酢飯の照りの間(あわい)かな
五位(ごい)鷺老人日暮日暮とこでまりに
むしかりの白花白花(しろはなしろはな)オルゴール
わが黒猫百日紅の花にもなれる
月近く擬宝珠の花頭(がしら)踏む
桔梗桔梗わが家に少年が二人
眼鏡の隅の黒猫光りくる野分
山人ら手を摑まれて時雨迎え
赤き木の実を朝光と思う一泊
山陰に夢一つ青鷺と決める
アロエの花黒猫も花年を越す
正月に山雀(やまがら)二つ貝の頰
雪柳散る白く斜めに夫の休息
新緑よ千鳥よ大観覧車徐々に
鶫旅立つ朧月夜の朧の躯
発熱に似るさんしゅうの花月余り
鳥籠るさんしゅうよ黒猫を抱く
黒猫紅梅さんしゅうよメリーゴーランド
中空の花桐を抱えきれぬ律子(りつこ)
朝夢切る朝鳥の樫若葉笛
夫に母ありて折れ座る卯木
抱きかかえ童女は重し霧の螢
七夕が来て黒猫の老い呆(ほう)