平成3年度 第9回現代俳句協会新人賞 吉田さかえ(よしだ・さかえ)

昭和14年生。
昭和39年ごろから作句、「海程」「未完現実」等に投句。
昭和59年海程新人賞受賞。
平成2年三重県文学新人賞受賞。
「海程」「木」「未完現実」等に所属。現代俳句協会会員、中部日本俳句作家会会員、三重県俳句協会会員、三重県芸術文化協会会員。

「朝の雉子」 吉田さかえ

毬をつく村の童女は梅のなか
桃咲いて七日七日の燈明へ
親知らず抜いて峠の山桜
水菜さげ霧の峠のゆきだおれ
菜飯炊く蠟燭からの火をとって
春雨に夜通し母の手毬唄
抜けた歯を山へ投うらば白椿
春宵の紐ぞろぞろと蔵の中
痛風や山のぜんまい伸び伸びに
氷囊のゆれゆれ村へ鷺がくる
炎天の山の地蔵へ水かけに
紫陽花へ身内集り形見分け
親子きて青葉まみれの背を流す
雨乞いに夜泣きの嬰をおいて出る
鶏が晩夏の墓を横切りぬ
北向きに布団動かす初螢
蝙蝠の燈明倒しでてゆきぬ
彼岸花旧街道は鬼が出て
青柿を投げあう子らの村ざかい
どこからも葬りの見える曼珠沙華
猪撃って冷や三合をあびるなり
晩秋を巣箱担いで男来る
炭焼きの山おりてくる朝の雉子
注連張って藁ぼうぼうと峡の家
田からきて旧正月の鯉を裂く
満月や夜な夜な村は鼬出て
薄氷の田の一枚を売りに出す
焚火より離れ柩のそばへ寄る
粥煮つむ荒ら山杉の冬の雷
雪がきて村の掟の縄を張る

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。