昭和58年度(1983)第30回現代俳句協会賞 久保田慶子(くぼた・けいこ

昭和22年 加藤楸邨主宰の「寒雷」に入会
昭和31年 「寒雷」同人
昭和31年 第2回サンケイ俳句賞受賞
昭和50年 現代俳句協会々員となる
昭和55年 句集『不思議』刊
昭和56年 「寒雷」清山賞受賞
昭和58年 句集『九月』刊(牧羊社)

※略歴は受賞時点のものです。

第30回現代俳句協会賞受賞作  久保田慶子

花火果つ桔梗の色の空と屋根
黄菅流れ鋳物の町の灯の色へ
竜の玉獣の言葉わかると言ふ
星祭赤子ら母の名札負ふ
向日葵の裏ばかり見ゆ饀作り
常夏や朝鮮訛の怒り投ぐ
かの地主白露に白き鶏放ち
月光の天門教会猫入りゆく
馬追が髭立ててゆく獄の道
ダリヤ熟れルイ王朝の夢売りぬ
葦原に白馬日本語へ振り向きぬ
野の色や裸馬の目がある水鏡
秋天や古城は骨の宴なり
水飲めば桜紅葉の母国あり
厚物の枯れゆくやうに犬は死す
月光の射たる青あり木の林檎
勲章の汚れて寒き飾窓
雲くらき父母の国より百合根くる
冬葡萄暗涙となり宙に垂れ
地下室の林檎九月を牢記して
濃霧ゆく乳房張りたる山羊に会ふ
夜の電話声の彼方に薔薇ありて
棕櫚の花イスラムの唄こぼれ降る
鶏食ひしわれカンナより高く立つ
野葡萄や頭蓋のごとく壺干され
鰯干すスカートの裾八重に咲き
巡礼は薔薇の高さにひざまづく
ロザリオや一つ日傘に老夫婦
百合の香の黒人とわれ鏡中に
椰子の実は火色暮れゆく鄙の浜
離れさる風船灼けて大西洋
曼珠沙華聖書に遺る父の印
猫柳朝鮮の唄また聞きぬ
娘の電話メーデーの歌が中をゆく
石蜜や玄奘三蔵と夏に入る
蕗下げて仏の顔の切手買ふ
農学部流星の馬梅雨に病む
梅雨深しヨルダン硬貨の王汚れ
蒙古馬同じ銀河と眠るらむ
力草軍靴の迫る匂ひもつ
芋嵐ゴッホの道は遠のきぬ
冬錆びのナポレオン号碇泊す
国境へ鳥兜の原広がりぬ
シリア去る人の髯枯れ吹かれをり
点々と無花果の芽よ兵肥えて
灯の中に明日咲く朝顔国ざかひ
朧夜や久女を読みて目を病みぬ
法螺吹きの姉の鶴子へ桜咲く
朱欒割く踏絵のあとの涙あり
雪の空父の中年知らざりし