2001度 第56回受賞者 鎌倉 佐弓(かまくら・さゆみ)

昭和28年、高知県生まれ。本名乾佐弓。
埼玉大学在学中より俳句を始め、昭和50年「沖」入会。63年沖珊瑚賞受賞。同年「沖」を退会。平成10年国際俳句雑誌「吟遊」(夏石番矢代表)の編集人となる。

著書:句集に『潤』『水の十字架』『天窓から』『鎌倉佐弓句集』英訳句集『歌う青色』。
共著『現代俳句パノラマ』『新世紀女流俳句ワンダーランド』他多数。 

第56回現代俳句協会賞受賞作  鎌倉佐弓

ポストまで歩けば二分走れば春
花菜畑ざぶんと人を好きになる
鍵をかけ忘れてさくらが満開に
爪立てて蒲公英のわた降りるらし
花衣しあわせは皺寄ることも
天女にも臍ありて春たけなわに
ギリシアのアの音ひびく雨あがり
おおどかに扉を叩き夏に入る
はるかなる石の王妃へ薔薇かんむり
夜も回る水車会いたい人がいる
こんにゃくのぷるぷる並ぶ梅雨晴間
この暑さ定規は目盛り捨てたいよ
西瓜手にじぐざぐ続くアスファルト
蛾のなきがら天与の塵とおもうべし
夏終る引き出しに雲入れたまま
いくばくは枕に吸われ秋の風
コスモスを五歳はからころと過ぎる
酔芙蓉影のどこやらたぷたぷと
野はどこも正面フリスビー進め
われもこう山を見たくて育ちしか
鬼さんこちら手が鳴る遠い芦が鳴る
鳥わたる微量の涙ついていく
膝が抱くハンカチ、パン屑、虫の声
曼珠沙華みんなで咲いても皆さびし
まだ夢はあるか きつつき木を覗く
ちぎれ雲ときにはこの指に止まれ
穂絮とぶ男のまつげ愛しめば
ある日わらわらと水鳥が水の上
蓑虫のうちなる光屈めるや
天も雪を見るらし雪の降りはじめ
星凍ててひづめの音が絡まりぬ
冬の虹きみと分け合うには微か
冴返る立て膝をわが砦とし
柩には窓を海原には風を
下萌えて夜は柱の太くなる
梅の枝つぼみはほこほこと来たる
ほの暗きことが大事な玉手箱
此処がいい花びらは石に動かぬ
誰がための春ぞ大きく弧をえがく
蕊さずかりしアネモネに逃げ場なし
朧夜のわが腕が知るわが乳房
箸を子に伝えて桃の花ざかり
驟雨にも背中のありて通り過ぐ
蛇出でし大地へ空の包囲網
ざくろ咲くおんなの首をとび越えて
夏帽に故郷を入れて伏せておく
ダリア濃し風もつもれば赤くなる
ががんぼにががんぼの脚みな家来
太陽が味方について草いきれ
向日葵をかかげ青空は止まらない

 

※受賞者略歴は掲載時点のものです。