2011年度 第66回受賞者 渋川京子(しぶかわ・きょうこ)

・昭和9年  東京・大田区生まれ。東京都江東区在住。
・昭和50年 「響焰」(主宰和知喜八)入会。
・昭和52年  響焰・白灯賞受賞、同63年「響焰」退会。
・平成 3年 「面」(三橋敏雄指導)入会。
・平成 7年 「頂点」(代表杉本雷造)入会。
・平成 8年 「國」(代表竹本健司)入会。
・平成 9年  第15回現代俳句協会新人賞(現、現代俳句新人賞)受賞。
・平成10年 「ぽお」(代表大坪重治)入会。
・平成10年  國・國原賞、同14年國俳句賞、同18年國賞を受賞。
・平成20年 「ぽお」・「國」終刊。
・平成20年 「明」(代表竹本健司)入会。
・句集に、『レモンの種』。
・現在、現代俳句協会会員。「頂点」「面」「明」に所属。

第66回現代俳句協会賞受賞作  渋川京子

  足裏よりも遠きてのひら椎咲きぬ
  朝の蟬まこと柱は裸なり
  喪の帯を解く鷭の声かぞえつつ
  鉛筆と同じ匂いのかたつむり
  青しぐれ空間生まんと正座せり
  影に追いつけぬよ日傘白すぎて
  鍵盤のひとつが火種麦の秋
  ときどきは自分を呑んで錦鯉
  真っ青な時間残して蛇よぎる
  鵜の声につながっている非常口
  行く先を変え蝸牛うすもも色
  そよぐほかなし山繭をたまわりて
  しんがりとしての大きな白日傘
  軸足に水の音あり晩夏の木
  盆過ぎの風ひろびろと身八つ口
  木の実太り被爆船ある町に住む
  つくつくし水ひき寄せて灯る町
  黍畑の向こうは風の昭和かな
  喉もとに月光あつめ薬のむ
  秋の昼眉描きて尚さびしき顔
  鏡ごと一族が消え十三夜
  白湯のんで庭いちめんの河原菊
  色鳥に生まれ目玉のよく動く
  産まざりし子か陽まみれの一位の実
  秋がゆく画鋲の痕をふりまいて
  暮れぎわの傘つややかに煙茸
  青みかん運河にちから満ちてくる
  絶えず呼ばれて白銀の芒山
  流木の裏はにぎやか新松子
  秋深し乳房にぶつかりながらゆく
  絶景でありぬ夜長の箸・茶碗
  冬に入る赤子は大いなる突端
  立冬の夜目にも黒き父の文字
  透明の傘を砦に冬ざくら
  初しぐれ硯にこだま来つつあり
  山頂に置き忘れたる懐手
  朱欒熟れ風とはちがう山の音
  眉間すぐ夕日に応え冬落葉松
  牡丹焚く口紅薄すぎはせぬか
  いきいきと傷痕たっぷりと柚子湯
  手袋にかくれて数えきれぬ指
  駅という大きな水輪鳥帰る
  蓬原からだの電気抜きにゆく
  春の月迷子の母を捜すかな
  雉笛吹いて木目あざやかなる男
  川底は闘っており松の花
  梅ひらく畳にしずかなる疲れ
  一塊のわれか椿か流れおり
  涅槃図の中ひとすじの風の道
  びょうびょうと桜はさくら色に堪え

 

※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は受賞時点のものです。