平成11年度上半期 第53回受賞者 鈴木 明(すずき・あきら)

1935年生まれ。
大學入学直前に胸部結核で入学を断念。8年間療養生活を送る。その間、「こよろぎ」主宰鈴木芳如の療養句会に出席、俳句を知る。
昭和35年、伊丹三樹彦主宰「青玄」入会。
昭和37年「青玄」新人賞受賞。
昭和38年同人。
昭和41年、同人誌「A(あらん)」を創刊、編集。
昭和44年「野の会」(主宰・楠本憲吉)創刊に参加。「野の会賞」受賞。
昭和60年より「俳句の現在 実の会」を創設指導。
「青玄」「野の会」各無鑑査同人。「実の会」主宰。現代俳句協会会員。

第53回現代俳句協会賞受賞作  鈴木 明

男ふたり吉野静をみおとせり
一会にて舐め合う猫や夕ざくら
処刑後の曳きずり迹や花の門
養花天半導体を売る少女
水に浮きしばらく沈むわが朝寝
呉須赤絵大魚も鉢に朝寝せり
跪拝こそ学習春陰の少年僧
空海のすね毛荒地の麦の禾(のぎ)
塔二つ揃うと急に暑くなる
晴れた日の天界に敷く梅筵
感情を移しつつあり黴の壁
房総の太い揉みあげ青岬
西東忌船の蛇口をしたたらす
天橋(てんきょう)の頸骨ゆるむ夕卯波
墓守の死にぎわつもる松落葉
紀音夫亡し沖に橋梁搬送船
島抜けのいまも怯えている茂り
石臼に藪蚊大きな目をおとす
原爆忌少女のようなお婆さん
はんざきをどう詠もうとも見えてこず
蟇が出てそれらしくなり父の墓
西日の木他人の死期をさきに知る
天蛾(すずめが)のかしらの鬼符も能の里
祭の火富嶽の臑を駆け上る
月白の砂丘のふくらはぎ隆し
曼珠沙華一本松の無を支え
存らえて女装もすなる月の友
登高の都市生活者重装備
赤のまま自死まではくる母の忌日
秋の暮法定老人用湯呑
門限のなき少女らの夜と霧
隣室の夜型幼児稲光
あきかぜや人間の壁伸び縮み
錦秋のどやどやといる寺畳
人体に根も葉もなしや括り桑
鈴虫の死に絶えるまでいくつねる
熊楠(くまぐす)のたふさぎ紀州の朴落葉
からだにも潮の干満冬ごもり
当山の霊位寒竹の子に日ざす
ボクむかし武装してたよ七五三
鶴となり女優と翁二泊三日
暗殺の漆黒をとぶ蒔絵千鳥
祭祀権かの槇にあり霜の村
ほっはっほっ小癋見(こべしみ)づらの鮭さげて
実万両翁はっきりしとるがな
凍結の薔薇の炎の骨折す
三島由紀夫十代書簡集日短か
大冷えと動く地殻を容(ゆる)し寝る
IC基板の薄膜聖し聖し夜
年を越す映画監督不在の椅子

※略歴は受賞時点のものです。