昭和61年度 第33回現代俳句協会賞 飯名陽子(いいな・ようこ(現在・遠山陽子)

昭和7年11月7日新宿に生まれる。
昭和32年「馬酔木」入会。「鶴」を経て39年「鷹」創刊に参加、藤田湘子の指導、飯島晴子の影響を受ける。61年「鷹」退会。
第12回「六人の会賞」、「茨城文学賞」など。
句集に『弦楽』『黒鍵』。
※協会賞受賞後、遠山陽子に改めた。
※略歴は受賞時点のものです。

第33回現代俳句協会賞受賞作  飯名陽子

鶴わたる暗きより垂れ自在鉤
囀りの中や枸杞酒の二年もの
記念写真の最上段や桜散る
喪服まだ着てゐて花火揚りけり
かなかなやアメリカ人を夫とせる
行く秋の川に映りて歩く父
一月の鷗もわれも頸汚す
成人式終りし大き雪片よ
花嫁よ雪にふくるる丸木橋
吹雪たるあとの満月煉瓦館
頭入れて雪くらがりの兎小屋
影の木に影の梯子や囀れり
梅一枝折りぬ上手に笑へずに
東慶寺たんぽぽいたく踏まれたる
八十八夜竹の葉擦れの中にゐる
禅寺の筍冷えの柱かな
膝の上暗く夕立となりゐたり
遠螢このつぎ光るあたりかな
金網の目に目に羽毛油照り
打水をして新妻の遊ぶごとく
また一人へうたんの尻見上げたり
甲斐曇にて瓢箪の強くびれ
紋服の人が見てゐる秋の軍鶏
干布団叩く手が出て中華街
墓参後にひとの墓見る桜かな
お涅槃のくすぐりっこの少女たち
三越に転げ込んだる雹の玉
わが両眼鯰の水に映りをり
川幅のいきなり広き端午かな
水芭蕉嗅がむと膝をつきにけり
尻蹴って蟇あゆまする薬師道
梅雨茸見てゐて一人ゐなくなる
白蛾として蒟蒻畠に生れたる
草車押して雀斑を埴しける
月食のしづかにすすむ金屏風
厄日なり護符の真神の尾がふさふさ
老いぬまに見む紫蘇色のしその花
餅花の灯れり赤子手から手へ
山茶花や道いっぱいに霊柩車
ことごとく折れ三月の木賊かな
春昼の獏のよだれの地にとどく
ペンギンに肩なくて散る桜かな
土筆折ってわずかな息を吐きにけり
川二つ音もなく合ふ桐の花
はくれむに揚羽のたたむけはひあり
腹ほそき蝶のぼりゆくいなびかり
かへるさの一粒雨や母子草
滑り台すべり悪くて蟬しぐれ
鍵盤打って真夏の濤の立ち上がる
長梅雨のビラも男も破れけり