昭和54年度(1979)第26回現代俳句協会賞 岩尾美義(いわお・みよし

1926-1985

第26回現代俳句協会賞受賞作  岩尾美義

木の中がよく見え母に枇杷の雨
梟がうごいてつかむ青世界
にわとりを五月六月縫い合わし
釘音にしろさるすべり澎湃と
優曇華の日和や僧侶うしろむき
音楽に蝙蝠がいてしわぶけり
もの音は枯木に移るかたつむり
沈丁花はらえば見える赤ん坊
わがなかに朱肉のけむる蝸牛
山ざくら臍の緒ながく恐ろしく
おぼろ夜の馬あらわれて錆びはじむ
焼いて食う目刺を神がにぎやかに
炎天に舟となる木の並び立つ
うるし掻く柩の中の男かな
榛の花いつかは人の中で死ぬ
炎天や埋葬の地図まっしろに
白葡萄しずかに山がこわされる
何となく柩のなかの胡麻のつぶ
一匹の猫を地べたに秋彼岸
空部屋に石一つ置く秋の国
梨を食う此岸のわれは箒かな
死者燃えるすこし菜の花わらべ唄
人形(ひとがた)の木が五六本すみれ草
にんじんを三人で掘る雨の跡
天秤にくすり盛る日の蓬草
霊ひとつ空壜にある燕子花
ひとり浮く夕日の奥の薬刈り
うつうつと薩摩の国の金鳳華
なみだつぶ空より下は紫蘇畑
僧形の魚をたどれば花あやめ

「現代俳句協会会報 No.96 1979年10月号」による。