平成6年度上半期 第43回現代俳句協会賞 花谷和子(はなたに・かずこ) 1922-2019

大正11年3月、大阪府豊中市に生まれる。
昭和29年日野草城主宰「青玄」入門。約1年を経て初出句。
昭和31年青玄同人。32年青玄賞。
昭和39年青玄無鑑査同人。46年度青玄評論賞。
昭和47年「草苑」入会。
昭和48年7月同人誌「藍」創刊。
昭和49年草苑、50年青玄退会。
昭和50年1月より「藍」主宰現在に至る。
昭和61年度大阪府文化芸術功労賞。
句集『ももさくら』『光りは空へ』1985年「小熊座」創刊とともに入会のち同人。現在同誌編集長。現代俳句協会幹事。
句集『陽炎の家』『鳥柱』。
第24回海程賞、平成5年度宮城県芸術選奨などを受賞。
※略歴は受賞時点のものです。

第43回現代俳句協会賞受賞作  花谷和子

窓にいま太陽生まる冬林檎
綿虫の目鼻を知らず働けり
水鳥が水鳥ふやす牡蛎筏
小春凪沖へ睫毛を張る少女
バターナイフすっきり拭う午後ぬくし
ボタン冷ゆ海上都市のエレベーター
同型にして百態の海猫舞う
枯れゆくに骨身惜しまず雑木山
歳月はやがて微塵に冬夕焼
到り得ぬ光ひとすじ雪蛍
冬虹を鏡の中へ入れてしまう
一粒ずつ拾う椎の実の無数
裸木となり月光に手をつなぐ
雪嶺のふちどる空へ向いけり
音らしき音生む枯れし菊束ね
身じまいを直す山茶花散るばかり
とぐ米の水の匂える小春かな
秋すでに星とまじっている黒髪
贅沢な街より戻り柿を剝く
人影のはるか鶏頭一本ずつ
塔乗の子を見送りしのちの雪
分度器に透きたる海図秋の風
桜蓼やさしさいつもうしろより
花鋏きのうの蜂にまた出会う
むつかしく思わず障子開けに立つ
球入れの球晩年の日を数う
わがものと見し凶作田過ぎ信濃
頬かむり解かず信濃の捨案山子
まなざしを遠く林檎の木に林檎
アルプスの澄む空すすき抱えゆく
水底に杞憂のありやほととぎす
濁流のさきざき栗の花咲けり
草亀の単眼ひらくもめつむるも
泉の音ひびき皆目見えぬ闇
星移る匂い袋の涼しき香
一畝を至れり尽せり茄子の花
好転のとき青鷺の身じろぐは
白はちす咲く八月の絵蠟燭
引き際の波へ及べる夜涼の灯
火の通りにくき鯛の子煮てひとり
満月のほたるぶくろよ顔上げよ
明暗はふたつにひとついなびかり
底からの得心全山紅葉せり
励み鳴くちちろ都心のターミナル
言い遺すこと月光に富む大地
船上の春やシェカー振る無口
凋落の白さも白さ沙羅の花
菓子包む薄紙人の世の春を
声映すまで透きとおる五月の窓
潮匂う髪よたんぽぽ踏まないで