昭和61年度 第4回現代俳句協会新人賞 瀬戸美代子(せと・みよこ)

昭和37年「あざみ」(河野南畦主宰)入会。
昭和45年「あざみ」同人。
昭和55年現代俳句協会会員。
昭和55年「顔」(牧石剛明代表)参加同人 現在編集長。
昭和60年現代俳句協会新人賞佳作。
昭和61年「顔」賞受賞。

「水中り」 瀬戸美代子

桃の闇父の眼薬太りだす
不貞寝してはらわた伸びる桃月夜
恋猫とゐて何喰わぬ朴葉味噌
脱走を企らみをりしなめくじり
水晶にさざ波起こる蟬しぐれ
大南風乾きはじめの牡牛の背
旧道を蛇が出てゆく物思ひ
くらがりに四隅のありぬ土用入
あぶら蟬念珠の箱を朱としたる
炎天のまっただ中の百叩き
鶏の目の大きく見えし水中り
寺裏に火の熾んなる半夏生
六道をこわがっている兜虫
和箪笥に雷鳴こもる安堵かな
近づきしからだの熱き青葡萄
狂はんと盆燈籠を遠ざける
ゆるやかな川藻となりぬ祭以後
星合や俎の隅濡らしおき
掌のなかの固く冷えたる天の川
橋桁を盗んでゆきし稲光り
蝙蝠のひまな杜にぞ篝能
能のあと虫の法楽はじまれり
山頂へ喝采とどく黒葡萄
啞蟬のゐて山国のねむり欲る
男にはやれぬ白さを曼珠沙華
かなかなを泣かずに手紙持ちあるく
はつあきの絹ごし豆腐崩れだす
猟銃を忘れて来たる霧の坂
ちりめんの通り過ぎたる霜柱
極月や畳の上を風吹いて

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。