鈴木石夫句集集成『裏山に名前がなくて』

頒価2000円 平成31310日発行 カバーイラスト/歸山吉夫 本文イラスト/田口 武

ぼくたちは、目に見えないえにしの糸にたぐり寄せられて、こうしてここに一団を形づくっているのだ。このえにしの不思議さを大事にして行こうではないか。

俳句は面白くなければ……
それに 俳句は自由でなければ……とも、しきりに思うのである。(鈴木石夫)

 

串柿の種背信の味がする

東京時雨おろおろ歩く母をかばひ

パチンコの外は童話の夜の雪

老後にて絶品の畦塗りあげる

マラソンの膀胱はもみくちゃである

死後も要るおちやわんと箸 枯木星

送り盆一方的にさやうなら

原爆忌雀が窓に来てくれた

夏落葉踏んで体重確かめる

裏山に名前がなくて裏の山 (所収句より)

 

Ⅱ-6 現代俳句のつどい選集 現Ⅳ (げんフォー)

定価1500円 令和元年9月1日発行 装幀/小島真樹

令和に吹く新しい風『現Ⅳ』

 昭和58年に始まった研修部句会「現代俳句のつどい」は、100回毎に選集を出していて、4冊目の『現』は第301回(平成225月)から第400回(平成309月)までの100回の句会に参加された61名の全作品4239句から699句を収録したものです。

 なお、研修部句会「現代俳句のつどい」は、毎月第1土曜日午後1時より現代俳句協会図書室で開催されています。特定の指導者は置かず、参加者が平等の立場で意見を述べ合う風通しの良い句会です。運営は405060代が中心となり、活発に活動しています。

現代俳句協会の会員なら、どなたでも参加できますので是非おいでください。

選集10句抄

こいびとと死なぬ螢を飼っている       石山 正子

柿が熟してほのぼのとわが鎖骨        大坪 重治

ゆうれいの脱力で戦争に反対する       岡田 一夫

掃除ロボット国破れたる日を走る       佐藤 晏行

緑陰を太らせている笑い声          杉本青三郎

原発や牛は牛犬は犬といる          田中いすず

鋏よく切れ八月の理髪店           中内 火星

顔にモザイク胸元に赤い羽根         松井 真吾

蝌蚪のひも迎えにこない親がいる       横須賀洋子

秘密保護法十二月のこめかみ         若林つる子

 

Ⅱ-5 佐川 盟子『火を放つ』

定価 1500円 2019年7月30日発行 題字・装画/コーチはじめ 装丁/佐川盟子

  目覚めると此の世に腕が冷えてゐた

 この人はオバサンにならずに長い時間を水晶のような硬さと透明感とをもって生きていくのだろう。じっくり書いていく人になりそう、と感じながら友達になった私の勘は間違っていなかった。  池田澄子

 

自選12句

寒灯や雨は光の中に光り

セーターを脱ぐと外れる耳飾

花冷を辞令一枚持ち帰る

一匹のまづ一本のくもの糸

滔々と流れ岩魚を動かさず

蟬のこゑ淡く巡らす廃墟かな

キッチンを灯すと淋し夏休み

脱げさうな靴で西日を歩いてゐる

工場の中が明るい秋の暮

綿虫が浮き荊棘線が錆びてゐる

容疑の男サンダルで捕はるる

わたくしに温められし布団かな

 

Ⅱ-4 𠮷岡 一三『遠方』

頒価2000円 令和2019年6月25日発行 装丁/小島真樹

  蝗仲間いなごを取りに行ったきり

 この句に出会った時、妙に郷愁を感じた。この「蝗仲間」は自分のことだと直感した。いつまで経っても幼い頃の思い出は心の底に積もっている。そうだ、あの時の「蝗仲間」はいまでもどこかを浮遊しているのだ。それを実感するのも表現の力のひとつに違いあるまい。そんな確信めいたことを思っていた。 塩野谷 仁(序文より)

 

自選12句

父母の写真狐の泊まる家

緑蔭を誰も出られぬやうに塗る

六角は愛するかたち糸とんぼ

きちきちばった昔から来た葉書

空海を探しに行きぬ天道虫

をんをんと鳴る春分の火炎土器

根性の野火がここまで消えに来る

また河鹿人に後れていて普通

草いきれ何もしていない怖さ

コロンブスの卵が一つ冷蔵庫

魚の目いつも全開四月馬鹿

蝗仲間いなごを取りに行ったきり

 

Ⅱ-3 新井 温子(あらいあつこ) 『一双』

頒価 1500円 令和元年7月27日発行 装丁/小島真樹

自選10句

天高し駱駝が駱駝曳いており

六日九日十五日空が三つ

一双のつばさください春の海

クレヨンのやがては春の海になる

紅をさす小指にリズム春うらら

ポケットの中に寒いと書いている

あなたです梅一輪の佇まい

しあわせは自分で決める温め酒

花合歓を見上げるやわらかな時間

佐保姫といっしょに入る小間物屋帯なし

 

Ⅱ-2 坂本 君江 俳句×エッセイ 『まほらの月』

頒価1200円 令和元年7月7日発行 装画/坂本君江  装丁/小島真樹

詩人としての懐かしき原風景や切なる思いを俳句形式に昇華させた─新しいかたちの俳句&エッセイ集─

 

自選10句

血族の墓やまほらの月の下

月が子を生み落としたり田の毎に

青い瞳の君詠む詩やメイストーム

未開の地蟻葬の子や葉の産着

蹴り落とす満月笑うウヒョウヒョと

ミサンガを吾に結ぶや雛の宴

ハヤブサの羽も借りたや浪漫飛行

富士あざみ暗夜航路の灯とならむ

老境のかしこに咲くや福寿草

火葬場の軋む門扉や花吹雪

 

Ⅱ-1 谷口 智子(さとこ) 『蛇眠る』

頒価 2500円 令和元年8月1日発行  装丁/小島真樹

「俳句とは何か」を模索して四十余年
これからも自由自在に私自身の俳句を書きつづけたい

自選13句

剃刀の刃より一頭蝶生まる

欲望のさくらさくらとわれら疲弊

春昼を跨ぎにわとり捨てにゆく

難聴の夏蝶ばかりが縺れ合う

おとうとと月のかけらを拾いけり

死際の真冬のブランコ漕いで父
吃音のままで百年散る銀杏

寒鴉逃げ出す現場火の海に

貨物列車出てゆく蛇を眠らせて

熱湯をうぐいすのために冷ましおく

二月の部屋誰も居ないが誰か居る

リラ冷の改札口で人を抱く

骨壺は蛇の匂いのする部屋に

 

Ⅰ-10 小池つと夢 『終着駅』 

頒価 2500円 令和元年7月5日発行

 折檻の母も子も吐く白い息   小池つと夢

昔も今も母親は子どものことを真剣に思って心を鬼にして叱る。いまは社会問題になっているが、昔は「折檻」という形も許容された。一時代前の貧しい時代には、何よりも真人間に育つようにと、親も子も懸命だったのである。今の時代のように不正をしても偉ければよいとは論外で、人間として正しく生きなければいけないという、貧しくとも倫理観のまっとうな時代があったのである。この句は何度読んでも涙が出そうになる。

佐怒賀正美「序に代えて」より

 

自選10句 

鴨の銃殺見て来て母に送金す

白鳥来たり村に唯一の赤電話

葬儀屋の夜なべ丸見え脱稿す

薬臭の母の食器に雛あられ

鯊釣りのはづされし義肢傍に

枯野駅母が居さうで降りてみる 

仔馬立つながき臍の緒曳きずりて

初蝶や母の柩の覗き窓

母の忌や働きづめの蟻の脚

蛍火や終着駅に母が待つ

 

Ⅰ-8 小野 功 『共鳴り』 

頒価 2000円  2019年3月31日発行  装丁/小島真樹

現場に立ち合わせた作者の息吹、納得するまで物事の本質に迫って行く作者の強い意思。(塩野谷 仁)

 

自選12句

懐の刃磨いて雲の峰

十六夜に男階段踏み外す

白さざんか指の先から冷めてくる

潮けむり室戸岬の春慈光

風車まわり過ぎれば嫌われる

しばらくは等身大の春に座す

荷風ならきっと手にしたこぼれ萩

墨染の冬の結界永平寺

共鳴りの滅ぶことなき寒北斗

春愁の阿修羅眉間にある敵意

盟友は今も盟友沈丁花

菜の花のてっぺんを摘み不眠症

 

Ⅰ-7 堀 節誉(ほり せつよ) 『渋(じゅう)

頒価2000円 令和元年5月31日発行  装画/堀 研  装丁/小島真樹

物の存在は光の屈折によって変化しつづける
その変化してゆくものを心で受け止め
「がむしゃら」に生きてきたこれまでとは
違った存在の自分を知りたい

 

自選10句

長い旅になりそうで雪が融ける

骨拾う心構え大地芽吹く

羽交い絞めにされるふっと春の雪

空蟬に残る自分を抱くちから

熱く触れあえるところに枇杷の傷

カンナの緋叩かれるまで伸びよ

会いたいかと問われしばらく背泳

台風の来るとき目玉洗いけり

この空気を持ちこたえ冬瓜抱く

渋柿の渋抜けてゆく美学かな

 

Ⅰ-6 有坂 花野 『青き小(ちい)さき魚(うお) 』

装画/有坂雅江  装丁/小島真樹

俳句がこんなに短い詩でなかったら、世界中の「俳句」を知っている人々に愛されているこの奇跡のような短い詩の歴史、先人、先輩、仲間、そして俳誌という存在がなかったなら、これほどにもゆたかな文学的体験は私には実現しなかっただろう。(あとがきより)

 

自選12句

青き小さき魚となるべく泳ぎけり

この星の戦絶つべし冬銀河

鳥渡る東京棄てるすべもなし

閑古鳥汝は見ざりし地震津波

眠つてはいけないお魚冬怒濤

法枉げて夏野よごれてしまひけり

凍土や死の商人の革ブーツ

正義のはなしへこんで見える冬の月

枯野のはて湖に水飲みにくる星々

薔薇たちよカザルスの鳥のやうに鳴け

メフィストフェレスの爪伸びてゆく朴の花

死はたぶん甘きねむりの淵の月

 

Ⅰ-5 永島理江子 『石鼎のこゑ』 

頒価 2600円 平成31年3月3日発行  装丁/小島真樹

『石鼎のこゑ』句集名がいい。

句もまた思いが熱い。著者は思慕の人。

師への思慕は亡き夫への恋慕となり胸を打つ。

〈涅槃吹く家の中にもけものみち〉は出色の作。渾身の第6句集。  宮坂静生

 

自選10句

福藁をさくさくさくとたれか来る

樹木医の胸板厚き春を侍っ

金剛杖けふ越えゆかむ秋の虹

歳月や石鼎旧居の白椿

筑波嶺を遠まなざしに更衣

ころぶとはいと寂しきや立葵

結氷となるか軍馬の泪かな

激論の寺山修司麦の秋

瓢吹けば石鼎のこゑ間近にす

昏れそめしわが体内に眠る山

 

Ⅰ-4 岡田 春人 『赤石岳』

頒価 2000円 平成31年4月18日発行 装丁/小島真樹

少年時代、実家の農業を手伝い、土と親しんでいた感覚が、今でも無意識のうちに、俳句に影響を及ぼしている。
この自然との感覚は、これからも大切にしたい。

自選10句

ほこほこと陽の配らるる冬木の芽

生きものが匂ひだしたり春の風

暖かや水つぽい老人となる

大都市をまあるく走る初電車

母笑ふならいくたびも豆を打つ

全員のたどり着きたる泉かな

冬の田の小さきものの寝床かな

ちちははの亡き故郷の寝正月

春野を歩くさびしがるてのひらと

秋風や石は黙つて生きてゐる

 

『受け止むる淵』現代俳句の躍動 第1期・2 海野良三 著

(頒価2,000円 2018年11月刊)

「人のよささうな案山子でいいのかな」の一句は傑作。まさに著者良三さんの自省の気持が托されていよう。『受け止むる淵』とは見事な句集。旅吟も多く、知識欲旺盛さは変らないが、からだを張って刺激を昇華させる努力を〈淵〉と受け止める深さ、勁さが見られ感動する。(宮坂静生)

遠雷のごとアイガーの雪崩音
菜の花や鬼の雪隠傾ぎたる
人のよささうな案山子でいいのかな
みちのくの遮光器土偶蟾蜍(ひきがへる)
寒暮光海すれすれに飛ぶ一鵜
生きるとは出発の日々雪解川
万象に息といふもの初明り
山小屋は銀河のふちに舫ひけり
微笑みを尽くし穂草の枯れにけり
雪激し受け止むる淵無尽蔵
根雪からひゆんひゆん楉(しもと)天に跳ね
よく嚙むはよく生きること木の芽和
(自選十二句)

『河鹿笛』 現代俳句の躍動 第1期・1 大里卓司 著

(私家版 2018年11月刊)

戦後とはいつも戦前雨蛙
敗戦忌父が答えなかった訳
生きていてすまないと聞く八月の空
なんにでもなれたとおもう春の泥
入学は明日バスケシューズの匂いたつ
臨界の穴より地虫貌を出す
春の鍵一分前には握っていた
周五郎を閉じ花びらを掃きに出る
開場を待つプールの底に朝日
厨窓から初冠雪の永田岳
ひらがなの余白をあやす白式部