平成13年度 第19回現代俳句新人賞 守谷 茂泰(もりや・しげやす)

1965年静岡県生。
1993年「海程」に入会。
1994年「豈」に参加。
1995年海程新人賞。現代俳句協会新人賞佳作。
「海程」「豈」同人。
合同句集『燿』『海程新鋭集』『21世紀俳句ガイダンス』
現代俳句協会会員。

「帰郷」  守谷茂泰

海遠き日の青胡桃耳に当つ
少年消え緑陰はやわらかき絃
指先に痩せてゆく空夏あざみ
山国の夕虹みずみずしき傷なり
麦秋や肉体ふかく夜が来る
星空の神経であるががんぼよ
向日葵に灰より軽く父が立つ
鉱物のごとき膝立て緑夜の子
夏の野は太古のオルガンでありぬ
蛇打って夕陽にむせる峠かな
睡蓮はこの世に開く耳であり
祈るとき糸杉は風脱ぎ続け
てのひらに日照雨(そばえ)の匂い法師蟬
秋の蜂孤はしずかなる建築
螢袋生まれる前の風が棲む
河の面にひろがる秋の祖霊かな
鬼やんま天の楽譜は滅びけり
湖の底歩むかたちの曼珠沙華
雨漏りに似てこおろぎの鳴く生家
星月夜樹海の音の腕時計
自画像を剝がせば鶏頭あふれけり
耳鳴りのごとくに並ぶ秋の扉
蓑虫に遠浅の夜が来ていたり
村ひとつゆがみて映る烏瓜
目鼻なくすまで芒野を歩きけり
見えてくる風の断面ななかまど
青年の頬杖に棲む冬雲雀
寒卵時間の皺よる真昼かな
合唱の天心雪の華育つ
冬銀河は馬の体内へと流る

※受賞者略歴は受賞時点のものです。