昭和59年度 第2回現代俳句協会新人賞 工藤ひろえ(くどう・ひろえ)

昭和12年5月足利に生まれる。
中学時代に「火星」同人の田米開啓介氏に手ほどきを受ける。
昭和45年、堀井鶏を知り指導を受ける。
昭和47年、「郡島」創刊と共に参加、同時に「四季」加入。
昭和52年、「群島」第三回珊瑚賞(同人賞)を受ける。
昭和55年、現代俳句協会に入会。

「経・緯・」 工藤ひろえ

木の国の蟬にかこまれ命名す
木の奥の夫婦にあまる蟬しぐれ
父母を遠くに鯰の髭をぴんと張り
寝床の向き変えてかなかな親忘れ
男減り牛減り昏れて青田波
蟬の木のまはり悪人ともなれず
動くなよ田の萍と夕鷺よ
青葦に邪魔され鳥の寸足らず
水飲んで無数の螢にあふもよし
大鯰はねあげ死者の来る河畔
盆踊樹木の影をすり減らし
夏草のどさりと匂ふ駄馬輓馬
繩叩やさしかりきよ木曽の馬
山鳩の葬送合歓の花ひらく
青虫や太目に並らぶ白樺
連日の蟬のなきごゑ南の木
大鯰日ぐれは水のせっかちに
花葛にかくれて北へ坊泊り
酒の匂ひの白壁くづれ夾竹桃
黒揚羽木肌ざらざら知りつくし
霧ごめの木々相寄って一つの忌
午どきの山河はまぶし芋膨れ
夏わらび木を搔く婆とわらべらと
兜蟲のぼりつめれば木の初老
月山の晴れるまで啼け夏雉子
法師蟬嗚く奥州の道途切れ
夕映の息づまるほど大花野
北国の影が離れぬ兜蟲
とんぼ生まる水の不思議のあとさきに
みんみんの木に添ひ海を知らぬ子と

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。