2021年度 第77回受賞者 林 桂(はやし・けい)

1953年、群馬県生まれ、69歳。

◆俳句歴:
1967年 授業の句会を機に句作開始し、学習雑誌に投稿。
「歯車」(1970・鈴木石夫代表)、「寒雷」(1971・加藤楸邨主宰)に句を投じ、師事。
1974年 新潟日報俳壇賞(加藤楸邨選)受賞。
1977年 第5回五十句競作(俳句研究・高柳重信選)1席。
同人誌「未定」(1978・澤好摩代表)、「吟遊」(1998・夏石番矢代表)創刊に同人参加。
1988年 俳句評論集『船長の行方』で、群馬県文学賞(評論部門)受賞。
2001年 同人誌「鬣TATEGAMI」を創刊し代表同人、現在に至る。
2022年 群馬県功労者(文化)受賞。

◆現在:
「鬣TATEGAMI」代表同人、現代俳句協会会員、現代俳句評論賞選考委員、口語詩句新人賞(公益財団法人佐々木泰樹育英会)審査員長、上毛俳壇(上毛新聞社)選者、群馬県文学会議副会長、NHK前橋カルチャーセンター講師、群馬大学非常勤講師、日本文藝家協会会員、群馬ペンクラブ理事。

◆句集:
『黄昏の薔薇』(1984)『銅の時代』(1985)『銀の蟬』(1994)『風の國』(2004)
『はなのの絵本りょうの空』(2013)『雪中父母』(2015)『ことのはひらひら』(2015)
『動詞』(2017)『百句控帖』(2021)

『百花控帖』自選50句   林 桂

花薄(はなすすき)巨石(きよせき)は神(かみ)となりにけり 

姫隠(ひめかく)しの裏見(うらみ)の瀧(たき)や葛(くず)の花(はな) 

男郎花(をとこへし)錆(さ)びて匂(にほ)へる父(ちち)の鉈(なた)

朝顔(あさがほ)や少年(せうねん)ばかり憂(う)きはなし

花(はな)終(を)はり続(つづ)けて木槿(むくげ)明(あ)かりかな

二(に)の腕(うで)に風(かぜ)の来(き)てゐる稲(いね)の花(はな)

海(うみ)からの風(かぜ)の中(うち)なる桔梗(ききやう)かな

小学校(せうがくこう)の放課後(はうくわご)永(なが)き鳳仙花(ほうせんくわ)

空(そら)の彼方(かなた)に海(うみ)あるひかり曼珠沙華(まんじゆしやげ)

大学(だいがく)に海(うみ)の匂(にほ)ひす葉鶏頭(はげいとう)

南蛮煙管(なんばんぎせる)を誰(だれ)にも言(い)へぬ日暮(ひぐれ)かな

人流(じんりう)の絶(た)えて久(ひさ)しき蘆(あし)の花(はな)

茶(ちや)の花(はな)の翳(かげ)りそめゐる昼(ひる)の月(つき)

枇杷(びは)の花(はな)千日(せんにち)海(うみ)を見(み)ずにゐき  

とこしへに戦前(せんぜん)にあれ石蕗(つは)の花(はな)     

ポインセチア紙金銀(かみきんぎん)に触(ふ)れ合(あ)ひて 

臘梅(らふばい)や母(はは)の忌(き)近(ちか)づきつつ遠(とほ)し 

侘助(わびすけ)や古寺(こじ)を出(で)てゆく水(みづ)の音(おと) 

水仙(すいせん)や青戻(あをもど)りつつ日本海(にほんかい)

満天星(どうだん)や父(ちち)恋(こ)ひ蟲(むし)を花影(はなかげ)に      

菜(な)の花(はな)に身体明(からだあか)るくして戻(もど)る   

夕風(ゆふかぜ)に明日(あした)咲(さ)くべき牡丹(ぼたん)かな                       

光(ひかり)の中(なか)に垂(た)れてひかりの藤(ふぢ)の花(はな) 

いまだ幼(おさな)き朝(あさ)の青空(あおぞら)桃(もも)の花(はな) 

園児(ゑんじ)一列触(いちれつさは)つて通(とほ)る雪柳(ゆきやなぎ)

白木蓮(はくれん)に風(かぜ)の道(みち)空(あ)く光(ひかり)かな    

ゆゑなしに悲(かな)しき胸(むね)や翁草(おきなぐさ)  

花楓(はなかへで)餡麺麭(あんぱん)を喰(く)ふベンチかな 

蒲公英(たんぽぽ)を点(とも)して母(はは)へ帰(かへ)るなり 

百年(ひやくねん)を風(かぜ)と遊(あそ)んで花茅萱(はなちがや) 

花虻(はなあぶ)の澄(す)みて薊(あざみ)の白昼(まひる)かな  

出征(しゆつせい)の日(ひ)の父(ちち)麦(むぎ)の花(はな)一列(いちれつ)     

父母(ちちはは)の死(し)にたる家(いへ)の花通草(はなあけび) 

とぶとりの東(あづま)の國(くに)や燕子花(かきつばた)

寂(さび)しがる朝(あさ)の兔(うさぎ)よ著莪(しやが)の花(はな) 

薔薇(ばら)を愛(あい)す力石徹(りきいしとほる)のごとく痩(や)せ 

梅花(ばいか)卯木(うつぎ)に花(はな)むぐりゐる水(みづ)の星(ほし) 

雲仰(くもあふ)ぐまでにひとりや桐(きり)の花(はな)  

捩花(ねぢばな)の日(ひ)ごと日暮(ひぐれ)を惜(を)しみけり 

泰山木(たいさんぼく)の蔭(かげ)に翳(かげ)りて仰(あふ)ぎゐる   

夕闇(ゆふやみ)の始(はじ)めの螢袋(ほたるぶくろ)かな

月下美人(げつかびじん)へ兄(あに)呼(よ)んでくる弟(おとうと)よ  

十一人(じふいちにん)ゐて夏萩(なつはぎ)に風(かぜ)止(や)まず 

芍薬(しやくやく)の花(はな)は終(を)はりを地(ち)に触(ふ)れて 

花石榴(はなざくろ)漱石(そうせき)を待(ま)つ子規(しき)がゐて 

柿(かき)の花(はな)集(あつ)まるところから翳(かげ)る 

夏椿(なつつばき)薄明薄暮(はくめいはくぼ)を姉(あね)とゐる  

向日葵(ひまわり)の迷路(めいろ)の中(なか)を呼(よ)びあへり 

藪萱草(やぶかんざう)山河(さんが)神代(かみよ)のままになく