2013年度 第68回(特別賞) 照井翠(てるい・みどり)

・昭和37年(1962年)岩手県生まれ。岩手県釜石市在住。
・平成 2年(1990年)加藤楸邨に師事。
・平成14年(2002年)第20回現代俳句新人賞受賞。
・平成25年(2013年)第5句集『龍宮』により第12回俳句四季大賞受賞。
・句集に、『針の峰』『水恋宮』『翡翠楼』『雪浄土』『龍宮』。
 共著に『鑑賞女性俳句の世界』加藤知世子論執筆。
・現在、俳誌「寒雷」「草笛」同人。現代俳句協会会員、日本文藝家協会会員、高校教諭。

youtube 動画 照井翠氏「俳句で語る釜石-震災当日から現在まで」日本記者クラブ 

照井 翠 『龍 宮』 自選五十句

  喪へばうしなふほどに降る雪よ
  津波より生きて還るや黒き尿
  泥の底繭のごとくに嬰と母
  双子なら同じ死顔桃の花
  春の星こんなに人が死んだのか
  なぜ生きるこれだけ神に叱られて
  毛布被り孤島となりて泣きにけり
  津波引き女雛ばかりとなりにけり
  朧夜の泥の封ぜし黒ピアノ
  つばくらめ日に日に死臭濃くなりぬ
  石楠花の蕾びつしり枯れにけり
  気の狂れし人笑ひゐる春の橋
  もう何処に立ちても見ゆる春の海
  しら梅の泥を破りて咲きにけり
  牡丹の死の始まりの蕾かな
  春昼の冷蔵庫より黒き汁
  三・一一神はゐないかとても小さい
  唇を嚙み切りて咲く椿かな
  漂着の函を開けば春の星
  ありしことみな陽炎のうへのこと
  花の屑母の指紋を探しをり
  卒業す泉下にはいと返事して
  骨壺を押せば骨哭く花の夜
  屋根のみとなりたる家や菖蒲葺く
  ほととぎす最後は空があるお前
  蜉蝣の陽に透くままに交はりぬ
  初螢やうやく逢ひに来てくれた
  蟇千年待つよずつと待つよ
  同じ日を刻める塔婆墓参
  流灯にいま生きてゐる息入るる
  大花火蘇りては果てにけり
  人類の代受苦の枯向日葵
  片脚の蟻くるくると回りをり
  すすきに穂やうやく出でし涙かな
  鰯雲声にならざるこゑのあり
  柿ばかり灯れる村となりにけり
  死にもせぬ芒の海に入りにけり
  半身の沈みしままや十三夜
  廃屋の影そのままに移る月
  迷ひなく来る綿虫は君なのか
  雪が降るここが何処かも分からずに
  太々と無住の村の青氷柱
  釜石は骨ばかりなり凧
  寒昴たれも誰かのただひとり
  春の海髪一本も見つからぬ
  浜いまもふたつの時間つばくらめ
  亡き娘らの真夜来て遊ぶ雛まつり
  なぜみちのくなぜ三・一一なぜに君
  ふるさとを取り戻しゆく桜かな
  虹の骨泥の中より拾ひけり 

※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。