平成14年度 第20回現代俳句新人賞 照井 翠(てるい・みどり)

1962年生れ。岩手県生まれ。岩手県遠野市在住。
高等学校教諭。
俳歴17年。
平成2年「寒雷」入会。以後加藤楸邨に師事。同年「草笛」入会。
5年「草笛」同人。
8年「草笛」新人賞、「寒雷」暖響会会員(同人)。
10年第一句集「針の峰」上梓。
13年「草笛賞」優秀賞受賞、第二句集「水恋宮」上梓。
現代俳句協会会員。

「悲母観音」   照井 翠

汲みたての水の匂ひや蛇の衣
大南瓜布告の如く置かれをり
水芭蕉低く響ける嬥歌(かがひ)うた
黴の香や鷹女を魔女と読みもして
寒月に首刎ねられてゐたりけり
蟻地獄乳房を硬くしてをりぬ
女らの来て牡丹の緋の眩し
恋猫にだらりの帯のありにけり
墓に水掛けて呼びたる黒揚羽
満開のまんさくまるで枯れてをり
割るる線うすうす見ゆる通草かな
燕飛ぶ飛ばねば死ぬといふやうに
蟬の谷螺子堆く積みにけり
白桔梗柩の傷み易きかな
鰯雲孤島の如き獅子頭
揚羽蝶磁場に乱れのありにけり
不如帰幹に架けあるおぶひ紐
アテルイのづぶりと沈むやませかな
蜩よ森の表面張力よ
羅を着て魂となつてゐる
鉱脈の累々とあり雪捨て場
落椿地に阻まれてゐたりけり
夕暮れの核分裂の稲雀
綾取りの目の詰まりゆく霜の夜
桃の花狂女の含む金平糖
蜩や悲母観音はなぜに悲母
臘梅の水ふんだんに使ひをり
降る雨の粒見えてをりライラック
八月の水平線の人柱
酔芙蓉後ろの扉開いてをり

※句は現代俳句データベースにもアップされています。
※略歴は受賞時点のものです。