2018年度 第73回受賞者 清水 伶(しみず・れい)

◇清水 伶(しみず・れい)

・昭和23年(1948)3月31日、岡山県生まれ。
・平成2年(1990)「朝」入会、岡本眸主宰に師事。
・平成9年(1997)「朝」退会。「海程」入会、金子兜太主宰に師事。
・平成11年(1999)同人誌「遊牧」に入会、現在に至る。
・平成23年(2011)「海程」退会。
・句集 『指銃』(2009)、『星狩』(2017) 
・現在、現代俳句協会会員、千葉県現代俳句協会幹事、千葉県俳句作家協会会員、千葉日報・日報俳壇選者。
 
清水 伶句集 『星狩』 自選五十句抄
 
膕(ひかがみ)の昏きところを夏の蝶
父の日の大笑面に逢いにゆく
幾万の蝶を翔たせて夏の空
昼銀河歩きはじめに羅生門
冬の鵙そっと点りて人体図
抽斗のなか紅梅の坂がある
初蝶は真夜にはぐれた花骨牌(はなかるた)
椿闇まぶたあるもの横切れる
胎生の無数の濁り白もくれん
深層の水買いにゆく夕さくら
ガラス屋の向こう八月十五日
かなかなの銅色(あかがねいろ)の愚直かな
葉牡丹のなかはあざやかな生国
繃帯を巻く梟になりたくて
ぼうたんの荒々しくも月の跡
鮎食べて唇(くち)はつめたき水辺かな
螢狩わたしの闇を見て帰る
水鏡磨けば梟やって来る
唇のしずかな水位羊歯ひらく
うつうつと兎小屋あり木々芽吹く
雛壇のどこかに真夜の罠のあり
かくれんぼ蝶の白さを残したる
青楓われらひかりの魚であり
亡父(ちち)と母交り合うとき螽斯(きりぎりす)
死をねむる母は白花さるすべり
母死後のピアノに匿す秋螢
讃美歌を閉じ冬蝶を漂わす
冬銀河腕立て伏せの父がいる
星狩に行ったきりなり縞梟
裸婦ともなれず寒椿ともなれず
おぼろ夜の紅絹一反を思いけり
弦楽の一弦狂い蝶の昼
牡丹の黙秘権なるまひるかな
まなぶたのみづいてきたる芹の花
裏側は永久(とわ)に牡丹の芽でありぬ
茄子漬けて冥王星に近づけり
湯ざめして百の海鵜に迷い込む
西行に倦み冬蝶に誘わるる
人の死へけぶるまで独楽回しけり
春衣着てわたくしという渚
春眠のこの世の端のふくらはぎ
陽炎の太き動悸をみておりぬ
硝子切るしずけさにあり蟻地獄
父の忌のとおくに吹かる蛇の衣
菊枕簪(かんざし)いっぱいありにけり
頭(づ)のなかの林檎園なら盗りにゆく
黒板の数式野うさぎのゆくえ
回廊のどこまでが夢冬の鹿
永遠の合わせ鏡と寒梅と
たましいを華とおもえば霰ふる
 
※句は現代俳句データベースに収録されています。
※受賞者略歴は掲載時点のものです。