昭和58年度(1983)第30回現代俳句協会賞 中村路子(なかむら・みちこ

昭和34年 神保朋世主宰「窓」にて初めて俳句を知る。
昭和37年 沢木欣一主宰「風」に入会。39年「風賞」同人。
昭和40年 加倉井秋を主宰「冬草」同人参加。
昭和44年 加藤楸邨主宰「寒雷」入会。50年暖響(同人)
昭和48年 田川飛旅子主宰「陸」創刊同人。
昭和58年 寒雷、陸、冬草同人、女性俳句編集員。
句集 43年『簪』、50年『露』、57年『渚』

※略歴は受賞時点のものです。

第30回現代俳句協会賞受賞作  中村路子

白萩を刈るや刻々独りになる
口紅のいろを次第に昏らく鵙
紫蘇の実を嚙みて自分でなくなりぬ
木の上の少女に喚ばれゐる朧
毛糸玉突き放しては今を編む
白足袋を脱ぎて岬の旅を消す
雛壇をきしませ通る碁敵よ
風呂敷の自由なかたち青き踏む
埠頭庫の四角い無韻さくら汐
海女の墓卯浪の白をあつめたり
葉桜の旅を充して浪がしら
空に触れ山藤ものの終りの白
大学の緑を濃くす培養基
梅雨の傘裡まで濡れて看とりの日
紙倉に紙の截り口遠き雷
不意に立ち音楽喫茶の蚊を叩く
憂き卓の首八方にさくらんぼ
炎天の柩われには厳しき師
炎昼の鬼火を宥めいたりけり
向日葵を野太く咲かせ後継者
菊人形みつめし処より傷む
身の裡にしらほねはあり冬欅
眼帯に白き昏らがり蕗の薹
短夜の喪服ひそかに揃へ置き
ひれ伏して神官に夏終りたり
箸紙にひびきて鮎を落す水
鴫の群翔ち濁点としてわれら
オペラ観るわが茎石の沈みごろ
一ページ毎に黄昏新日記
いち日の声使ひきり白椿
雨音の春となりゆく木綿針
囀りのききとれるまでガラス拭く
遊ぶ目を僧に見られし花御堂
翅あらば今たたみ頃夕端居
髪洗ふひとの嗚咽のまつはるを
身を離れゆき香水の独りあそび
自由時間滝見に少し足らざりき
観音の千手に紛れ枯れよぶ手
月日の翳のかもめとなりゆけり
桐咲くやうみどりは屍の翅ひらき
友葬る花八つ手より淡く群れ
風邪兆すどの鏡にも侮られ
花芯濃く終りし不安桃にあり
落花掃き寄す詰まらなく立つ電柱
蓮池の夕日を泳ぐ鼠の目
白南風の墓がふる里素足になる
素足にて渚のけふをたしかむる
もどかしき老滴りに間合あり
夏椿化粧ひて別の声いづる
枝豆のすこし硬くて微笑せり