昭和62年度 第34回現代俳句協会賞 高島 茂(たかしま・しげる1920-1999

大正9年1月15日東京に生まれる。
昭和17年現中国東北省孫呉に兵役中、作句「ホトトギス」へ投稿。
22年まで「飛鳥」「寒雷」「石楠」等に投稿する。
23年「暖流」入会、以後同人として今日に至る。同年「俳句人」に入会、59年退会。
句集『軍鶏』『冬日』『鯨座』句帖『草の花』。私版短詩型文学全書『高島茂集』その他。
「風車」「雷魚」同人。
※略歴は受賞時点のものです。

第34回現代俳句協会賞受賞作  高島 茂

白牡丹いくたびも夜の過ぎゆくも
しいんと灼け鏡太郎忌の気球浮く
世過ぎとは修羅蔦しげる家のあり
河の流れ止りし夜の梅を干す
儀式のごと日暮をともし石蕗の花
わが秘境枯れゆく合歓のひと木さへ
下総に会ひたき人と浮寝鳥
粗食して世を軽がると白椿
家ずとに犬神の護符寒に入る
日さしくる春の氷に手をかざし
曇り日の眼につきやすし鯨肉
狙撃の日連翹遠く眩しめり
いくたびも少年に遇ふ日永かな
やはらかき土あり杏熟れて落つ
水無月の幹を朱かめし沙羅双樹
稲妻にうすばかげろふ確にをり
顔のなく夜干の白さ重なれり
水の木や翡翠に日の通りゆく
晩年の荷風の短編芋の露
百年も生きて夜明けの紺朝顔
登校拒否身近に雨の冬至なり
塩鮭の頭とわがどた靴のどこか似る
春窮のわが家に鳥きてゐたり
たましひの漂ひゐたり蟻地獄
首灼いて長崎の日の刻を待つ
キリストの顔斜めなりまくなぎ立つ
ぎんなんを拾ひふり向く鬼面かな
肉角を緊めてかなしき海鼠かな
生国は赤い絵札の枯すすき
手を下げて人間歩く冬景色
干鱏の尾骨化石をおもひをる
ブランコにゐる被爆死の少女かな
乱世を平たく生きし啞蟬よ
比べあふ菱の実鬼の顔をせり
榠樝あり塑像あり月蝕の刻すすむ
しぐれゐてやがて本降り桂郎忌
冬の蝿ぎぎっと動く廃船に
草田男の声剛かりし寒の星
水銀燈に雪ふらせしは鵆かな
正月の過ぎてよく見え機関砲
青梅線暮れゆく零下豚白し
鳴龍をふたたび鳴かせ春とおもふ
少年にわれは霞か亀の鳴く
うらごゑのどこかしてをり夾竹桃
鯨また廻りきたりし走馬燈
凶弾に斃れしは夢かなかなかな
裸子がはじめ近づき飢餓の国
六月やなんの物日の韓衣
鵯啼けり梅雨の明け際は暮れきはか
刻すでに影をもちたる曼珠沙華