平成5年度 第11回現代俳句協会新人賞 浦川聡子(うらかわ・さとこ)

1958年生まれ。
1985年から88年にかけて俳句総合誌「俳句四季」の編集に携わり、これが俳句との出会いとなる。
1986年より石寒太主宰の「炎環」に在籍。
1990年「俳句倶楽部」の「女流・句会実況中継」特集をきっかけに、若手の超結社グループ「雛の会」を結成する。
1990年および1992年現代俳句協会新人賞佳作入選。
現代俳句協会会員。

「管楽器の闇」 浦川聡子

無伴奏組曲夜の枇杷太る
校了の梅雨星一つ見えて来ぬ
雪嶺の光をもらふ指輪かな
ぼたん雪目に入りて海近づきぬ
如月の井戸より瀬音聞こえゐる
巣燕を見て桜桃忌かと思ふ
アリスのごと鬼灯市に紛れたり
ティンパニー積みゐて鳴りぬ入道雲
夏満月切れしE線揺れてをり
蟻穴を出て五線譜を縦断す
長き長きエスカレーター百合抱いて
一本の音叉となりてただ冷ゆる
ハープ鳴る地吹雪の闇かすかにて
冬の楽章ヴィオラから歩き出す
沈黙は凩の音留守電に
嚏して上司の名前忘れたる
長き夜の誤植ひとつに巡り合ふ
着ぶくれて地下鉄路線図に対す
雛の夜管楽器みな闇を持ち
たんぽぽの絮音階を駈けのぼる
雪解野やイニシャルだけの葉書来る
眉の濃きヴァイオリニスト花薊
万愚節鏡の中でまばたきぬ
チェロ抱いて鬼灯ひとつ持て余す
百合とゐて夜のデッサンの音つづく
月光にオレンヂ一顆裸身にて
立葵視界にシャワー全開す
校正者冬の銀河を見るときも
寒き目をしてフルートに息入るる
霧の中あまたの楽器鳴りて止む

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。