平成19年度 第25回現代俳句新人賞 山戸 則江(やまと・のりえ)

昭和43年、山口県豊浦郡(現・下関市)生まれ。
平成 9年 「白」にて作句を始め、有冨光英に学ぶ。
平成10年 「白」同人。
平成16年 「俳句スクエア」同人。
平成16年 第22回現代俳句新人賞佳作。
平成18年 第24回現代俳句新人賞佳作。
現代俳句協会会員、田上菊舎顕彰会会員。

「祈り」   山戸 則江

初夏の息整えて管楽器
五月雨になりきっている修行僧
嬰児の耳がきれいな聖五月
大夏野飢えし五体を投げ出しぬ
夜書いた手紙は泰山木の花
日曜の晴れ着の匂い合歓の花
ポスターが正体さらす大西日
家蜘蛛の落ちたところに聖書かな
窓閉める音に木犀目覚めたり
五分手があいたから蛇穴に入る
グレゴリオ聖歌たちまち蔦紅葉
後頭部から泡立草燃え上がる
薬効のうちに過ぎたる野分かな
ここよりは兵舎か秋の雑木林
鵙の贄思う金輪際の底
ついに白鳥心音のなかに入る
失せ物の出て大根は高く干す
冬の蝿生まれ天球膨張す
冬銀河降りてタクシー拾いたる
雪催まで千代紙のあといちまい
朴の花咲くを合図や父上京
臍の緒の代わりぜんまいのひとつかみ
人許すように羽織りぬ春コート
仔牛らのひしめく荷台花曇
何を知り何を知らない黄砂降る
春の土踏んで打ち明け話など
朧月アクロバットの手が滑る
初夏やホース牡牛のように跳ね
惜春の輪郭とぎれとぎれかな
さざ波は静かな祈り蟻の列

※句は現代俳句データベースにもアップされています。
※略歴は受賞時点のものです。