平成27年度 第33回現代俳句新人賞 山岸 由佳(やまぎし・ゆか)

1977年生まれ。
2009年 「炎環」入会、石 寒太に師事。
2012年 「炎環」新人賞受賞・同人、同人誌「豆の木」参加。
2012年 炎環新鋭叢書シリーズ5『風』に参加。
2013年 「炎環賞」受賞。

 仮想空間    山岸由佳

みづぎはの鳥の残像桜咲く
クロッカスあなたのことはよく知らない
葉桜のなか温めてゐる翼
昼顔のやうなまなざし本ひらく
花菖蒲川のつづきに眠りをり
日焼けして眼帯の子の打つメール
猫のこゑ完成近き虹の下
百合の花覗けば青き屍かな
電車から降り夕焼が止まらない
草に風ロープ張られてゐる泉
浜昼顔時計の針に雲流れ
七色の仮想空間消えて蟬
モザイクの小鳥のいつも九月かな
満月の浅瀬は砂を吐きつづけ
かはたれの黒猫に会ふそぞろ寒
人差しゆび木の葉の影を拾ひをり
まつしろな紙の足りない梟よ
雪ふれり振り子時計の中に父
冬木発つバスうつくしく海の底
揺れてゐる影だんだんに冬の蝶
マネキンの心臓冬の夕日差す
月光に雪の溶けゆく音を聞き
鳥帰るわたくしといふ森の奥
ピエロ立つ春の梢のゆれはじめ
雪の果観覧券を栞とす
つぎつぎと小石のやうなしやぼん玉
最果ての木々に祝はれ春の蟬
山吹やきれいな夜の待つてゐる
骨のなき魚林檎の花の窓
亀鳴くかこつちの道がおもしろい

※句は現代俳句データベースに収録されています。
※略歴は受賞時点のものです。