平成11年度 第17回現代俳句協会新人賞 松本孝太郎(まつもと・こうたろう)

昭和5年6月17日生まれ。東京都出身。
昭和50年頃勤務先の高島屋の職場句会に入り山本嵯迷の指導を受ける。
後、「水明」(主宰・星野紗一)に入会、後同人。真珠賞受賞。
「水明」同人。「面」同人、NHK学園講師、現代俳句協会会員。

「急須の弦」  松本孝太郎

シェルブールより届く句もあり初句会
裏打ちのなききさらぎの日差しかな
恋をしてゐる冬帽の眸がたまらない
春闘や角砂糖いま小さかり
仏頂面は常のことなり浮かれ猫
休肝日西行の忌とは知らず
お彼岸や喃語なむなむなむなむな
葉櫻や只今が正念場かも
かぶりつくハンバーガーの街薄暑
大いなる勘ちがひあり遅日なり
梅雨茫茫白髪を抜いてみたものの
どくだみや急須の弦をとりかへる
網戸越しに吠えられてゐる仏間かな
墓立てて晩夏動かしがたくありぬ
閼伽桶にちぎれ葉菊のものらしき
ぼうぼうと秋刀魚の燃ゆる佃島
オッパイの見えさうな娘やタイフーン
露けしや伝ひ歩きの嬰とゐて
綴じてあるカルテの厚み油蟬
白粉花やむかしお針子さんぞろぞろ
曼珠沙華コンテナといふ鉄の函
ポケットに木の実まだまだ浪漫派
草の実やそろそろ首の坐るころ
木馬亭の昼席にゐて秋蚊打つ
秋陽ごと木戸を入りくる箒売り
年寄りのかはゆくなくて月夜かな
枯蓮のつっかひ棒の枯はすよ
極月や序も跋もなき一句集
鍋物のホースを長くして忘年
黙阿弥を立見そのあと牡丹鍋

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。