昭和54年度(1979)第26回現代俳句協会賞 竹本健司(たけもと・けんじ

昭和8年4月6日岡山県生。中学生の頃から俳句に親しみ、小学校教諭として風土に根差した作風は骨太で斬新、昭和54年には現代俳句協会賞を受賞。昭和51年に創刊の俳句研究同人誌「國」の代表として活躍。平成元年から3年間中米グアテマラ日本人学校の校長として赴任。現代俳句協会理事、中国地区現代俳句協会会長、岡山県現代俳句協会会長として地域文化の向上に尽力され、山陽新聞文化功労賞受賞。句集『生国』『奥備中』など著作多数。平成28年5月21日没、享年84。(木村ゆきこ)「現代俳句年鑑2017」より

第26回現代俳句協会賞受賞作  竹本健司

山国や追われて杉の実が生りし
母老いて三日月遊ぶ家の中
百姓の血やまぶしくて鷺嫌い
雪国に鼻毛動くはいのちなり
鳥や人冬の身細めてはうごく
山畑に屈みて胸を暗うせり
(やから)あり皿の冬菜を乱すかな
鴉騒げば宙まじりくる石の国
雑木林に石や三日月それで終り
蒼然と同年枯れる顔の中(うち)
雨傘を差してあるけば荒音村
低く翳る妻そのほかはかたつむり
狂わずに男盛りを蓬餅
煮え激つ鶏の肉ふたりかなし
ちちははの呼ばわり亡ぶ肉うどん
茶碗箸数えて並ぶ雪国や
長男の裏へ回れば柿遊ぶ
山柿落つ響(ひびき)後半生へうつり
ひややかに心戻りし桜の実
水仙を千切るこの世のうす濁り
泣童この方(かた)灰に栗埋め
備中菜の花こころ一つ二つ飛ぶ
四十をゆく妻蛍虫数え
落花桃の木声あげて老いいそぐ
日月の消えるが荒し五目飯
父似母似とすいれんの株傲(おご)
口の内焼け爽やかに牛と滅ぶ
しあわせや白桃の蘂(しべ)曝しおく
山梨の実の盛りなりわかれなり
うつせみの大方風の百木(ももぎ)

「現代俳句協会会報 No.96 1979年10月号」による。