昭和55年度(1980)第27回現代俳句協会賞 桑原三郎(くわばら・さぶろう

昭和8年6月6日生れ、47歳。24年中学卒業後家事の農業を営んだが40年代に入り、都市化による環境の悪化により農業を捨てた元農民。現在、大洋工業(株)代表取締役。
昭和31年「馬酔木」に投句、約1年で句作を止める。同45年再び作句、「野火」に入会。同46年、同人誌「つばさ」を創刊、編集。同47年「野火」退会、「俳句評論」参加。

第27回現代俳句協会賞受賞作  桑原三郎

校庭に十薬茂るわが戦後
胸赤くひだるき草と歩くなり
八月や日本(やまと)は赤く草強し
生き急ぎては塩舐むる祭の日
幾秋を後込む父よ火縄銃
戦前は戦後長夜の油差
色白き死顔を置く春の家
海なしの高麗や穂麦を漕ぎて行く
泣きに来る泳がぬ母と水鳥と
いぢめ尽せし弁当箱よながむしよ
暗闇をたぐれば藁か村祭
風下に歯弱きわれと阿呆鳥
さるすべり穴より顔の見えゐたる
弟よ一銭玉を摺り写し
生きてせつなし菜を喰ひては紅き母
腹這えば田水は熱く父やさし
山梔子や都を遠く女学校
思ひゐる大和は青し百千鳥
たけなはの春や昔の歯磨粉
山中や生き存へて蟬の穴
赭土を殺し亥の子の遊びせむ
にんげんの煙は吹かれ梅の家
雁や地下道を出るあたま一つ
仰向いて水飲む昼やわれも秋
立ち疲れせし栗の木よ恋人よ
頭痩せて雨に打たるる秋の山
一歩きしてわが心中に桜の木
地を踏まず立つ足多き日永かな
春は近しと家中に抽斗あり
春や武蔵の坐り仏も見尽せり