平成11年度 第17回現代俳句協会新人賞 山本 左門(やまもと・さもん)

昭和25年10月4日生まれ。大阪府出身。
寺山修司の俳句にひかれ30歳頃より作句。全くの無所属で独自の活動を続けたのち、平成7年「地表」(代表・小川双々子)同人。著書に『星痕集』。
第5回「地表」賞、第9、12、15回現代俳句協会新人賞佳作。「地表」同人。現代俳句協会会員。

「直立」  山本左門

ノルウェーの森の眠れる白シーツ
金管楽器は冬野菜の匂い
湯ざめして王の孤独を想いおり
月光のバイク滴るまで走る
牛乳に膜張っている復活祭
鮮しき夜がみなぎるプールかな
剃りあとの痛みにつづく冬の海
騒然と標本の蝶天の川
夏のカレー喧嘩のように食べたまえ
蛞蝓を見つめ炎を感じおり
水中花美童が一人育ちけり
情けなくなるまでバスを待つ日永
姉と想えり薄明の落椿
恍惚と体操用具夏の朝
花冷や少年燐の匂いせり
盆過ぎの海の昏さのフライパン
新鮮な放浪に似て梨を剝く
一枚の切手裏返えせば白夜
氷挽くことに憑かれた男かな
水澄みて少女の手紙長くなる
鉛筆で母を殺めんさくらの夜
白鳥の間近にいるはなまぐさし
孵卵器の灯っていたる雪の家
ひまわりの直立圧倒的なさみしさ
万緑の奥へ奥へとエロス論
体温に近き雨降る盆の頃
独身を微罪と言えり水中花
蟻地獄のぞく少女の薄化粧
煮凝に太陰暦の時流れ
童貞のごとき冬日の大理石

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。