昭和57年度(1982)第29回現代俳句協会賞 森田智子(もりた・ともこ

昭和13年4月11日大阪に生まれる。
昭和32年 職場俳句サークルにより、西東三鬼主宰の「断崖」に参加。
昭和46年 「花曜」創刊を機に、鈴木六林男に師事、同年「花曜」同人となり、現在に至る。
昭和47年 第一回花曜賞受賞
昭和54年 第八回花曜賞受賞。同年、現代俳句協会員となる。
※略歴は受賞時点のものです。

第29回現代俳句協会賞受賞作  森田智子

新緑の山を下りきて椅子固し
五月闇部品満載して通る
Nを指しつづける磁石薔薇園に
奈良の昼梅雨の硝子に写り過ぐ
地下鉄に後頭並び敗戦忌
北山の杉の茂りに首さびし
二人居て道化師どうし旱の夜
少年は悪の塊夏痩せる
夏至の日の百のグラスを満たしけり
白木槿吾子を忘れておりし日の
堂内の暗きにおけり夏帽子
金魚掬う少女に不幸兆しおり
一房の葡萄の重み子に頒つ
少し寝てあと青空の限りなし
月の夜を立ち上りたる紙捻
踏まれいる邪鬼に届けり祭笛
頬杖の一人を残し紅葉燃ゆ
また吾も野鳥の群と夜明け待つ
闇汁の闇に立てられ琴の胴
枇杷の花にささやきし声もち歩く
踏んで鳴る鉄板とあり十二月
極月の片方残り耳飾
宝石店に隣り寒夜の靴の店
涅槃会の仏の足の方へ寄る
夕あかり喪章となりし梅の花
獣園の土に根を張り桜の木
紫雲英田に置きし赤子と血のかよう
春の暮屋根反り平和脅かす
ポーランド側に上れり春の月
春の昼生傷をもち横たわる