平成5年度上半期 第41回現代俳句協会賞 星野明世(ほしの・あきよ)

本名明子。大正15年1月生まれ。父山本嵯迷の指導を受け作句。長谷川かな女の仲立ちで昭和23年星野紗一と結婚。かな女、長谷川秋子、紗一に師事。水明にて「新珠賞」「水明賞」「季音賞」「かな女賞」受賞。
句集に『ねばりひき』『馬橇』『蟇』『青信濃』がある。
長谷川秋子とは同年の従姉妹、「秋子」「明子」の呼び名が同じことから、かな女に「明世」と命名される。水明運営同人。現代俳句協会及び俳人協会員。

※略歴は受賞時点のものです。

第41回現代俳句協会賞受賞作  星野明世

アダムよりイブの器量を降誕祭
白髯のドアーボーイも降誕祭
柚子を捥ぐ華奢な住職仲間とし
北風を来て欝金の衣にほれぼれす
噴水の終りは傀儡冬夕焼
心臓の至近に大きな冬の薔薇
冬灯阿亀の面も世紀末
脳天の寒灸ぬける尻の穴
野良猫に大きな帽子冬柏
焚火さかん向ふの人がぐにやぐにやに
囀りは闘ひの唄その中に
春の夢鴉欲しがる赤ん坊
山に遊び肌着にのこるさくら臭
頭の中に藤ゆれてゐる鯛田麩
名城を盆に浮かせり朧の夜
紫陽花通り見る見る視界海となる
孔雀の奇声紫陽花ぽんぽん弾けそう
梅雨の木に何の産卵泡だてり
折れ易き白墨ばかり土用浪
神主の褌一本土用浪
すたすたと朝顔市を僧一人
青芝に立ちてたしかな耳二つ
ひたひたと蚊喰鳥(かはほり)交差の時間帯
辣韮漬安堵の夜のサスペンス
長鳴きの蟬に一樹がとろけさう
切髪のやうに噴水噴き上る
噴水や廻り舞台が眼裏に
噴水や太陽の輪が廻転す
噴水の円周鯉のねむられず
へなへなの草矢見てゐる銀煙管
栗の花爪とぐ猫に手頃な木
蛇の衣人に見せればほどけゆく
ぞろぞろと僧の頭蓋(はち)ゆく青高野
阿亀に似たる信濃の妹の藍浴衣
夕焼の端切れとなりし鯉の池
犀川に骨のうねりを夏疲れ
凌霄花散つて吾が身をつつしめり
鮓食べてケインズ論は遠きかな
マルクス論冷酒をむせて呑み乾しぬ
マルクス語る男へ扇開きつきり
サングラスの射程ぞくぞく蓮の花
蟬穴あまた小僧が一人土を掘る
物置で少年倶楽部読む厄日
白茸一本立ちに野の心音
弁天堂に首飾りの猫台風来
コイン入れて酒が飛び出す寝待月
錦江湾攻めあぐ海霧の単調律(モノトーン)
隼人瓜ぼとんぼとんと猪迷ふ
鰡の飛ぶあとさき裸馬の少年等
十月野ジャングルジムに根のはえて