平成元年度 第7回現代俳句協会新人賞 橋本輝久(はしもと・てるひさ)

1939(昭和14)年3月16日広島市生まれ。
1961年『三重俳句』、以後『青玄』、『俳句評論』などを経て、『橋』、『夢幻航海』、『伊勢俳談会』所属。
1978年三重県俳句協会年間賞。1979年度三重県文学新人賞。1979年度中部日本俳句作家会賞。
現代俳句協会会員。

「春の母」 橋本輝久

伊勢の茄子朽ちて初日を浴びにけり
春立つと人来て土を打ち始む
野に立てばわれ流れゆく二月かな
がき大将春夕焼に染まりけり
杭打つて我も春野に沈みゆく
校庭に水ひき春の川となす
ふり向けばみな消えてゐる桜狩
高階に珈琲が沸き過ぎゆく春
姉の村午後も一途な揚雲雀
雨の日の蔵の二階の儀式かな
春の母大きな鈴となりゐたり
永き日の魚海溝へ墜ちゆきぬ
はつなつの香りも高き乳母車
麦畑馬の横顔過ぎゆけり
日より月へ光のうつる麦の村
父眠る六月あをき國見かな
格納庫羽搏くものを飼ひ馴らす
夏さむし川おろおろととどまりて
八月六日牛の両耳動くなり
鬼灯やとほく兵馬の音がせり
竹の花薄目の蝶に嗅がれけり
盆の村砂浜に舟焼かれゐる
みな襤褸夏から秋へ風が吹き
素裸で晩夏の海を泳ぎけり
日の中の冷えゆく秋の連結器
昭和史や小豆枕を蔭干しに
夜の地震わが内奥に脾臓あり
十二月八日ゆふがほの種を購ふ
冬あたたか壁に天道虫を描き
冬山を山彦として出でゆくも

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。