平成4年度 第10回現代俳句協会新人賞 田中いすず(たなか・いすず)

1925年長野県下諏訪町生まれ。33歳で上京、2年ほど句作らしき事を試みるが家業に追われ俳句とは無縁のまま60歳まで洋裁を営む。
1985年「るつぼ」入会。
1987年「暖流」「歯車」入会、るつぼ賞。
1988年、るつぼ臥竜賞、暖流太田義治賞。
1989年、暖流新人賞、現代俳句協会新人賞佳作。
1991年、現代俳句協会新人賞佳作。
「るつぼ」「暖流」同人、現代俳句協会会員。

「麗子像」 田中いすず

夜明けとも神ともちがう白菖蒲
雫にもなれぬ蛍を死なしめき
ちかぢかと象が尿する夏景色
ねこぢやらし咥えてみたが言い出せぬ
森閑と年寄りがいて蟻這わす
お祈りをする広さかな蟬の穴
鋼のような裸ならんと相席す
母かたの茄子がぐんぐんえらくなる
数学ができないぶんも金魚飼う
一日一善たんぽぽの絮がとぶ
笛が好きでも太鼓が好きでも蝸牛
水芸に似て夕顔が干瓢に
何に飽きたる白梅の黄ばみかな
見つかりやすい裸木のかげにいる
永遠の綿入れを着る麗子像
ひきしまる鰻の音かにわか寒む
黄水仙最後の息は吸いて吐かず
梅に鶯ちやんと揃うて困るなり
耳に蹤きなずなの萌える方へ行く
生んでもらいぬ桜吹雪を浴びん
休息の蝶のどこやら毛深くて
蟇の死をたしかめる棒持つている
体温が身の外にある花のあと
山男やまから下りてけむり茸
みみず鳴く指一本づつ眠らせて
秋の蟬粉になるとも石の質
掃除機の嫌いな猫ととても気が合う
竜胆にうつかり息はかけられぬ
いわし雲みな東京が好きで帰る
晩涼や脛のうちがわ砂の音

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。