平成5年度 第11回現代俳句協会新人賞 山口 剛(やまぐち・ごう)

昭和24年岩手県宮古市生まれ。父鐵石(石楠系)の影響で少時より俳句に関心を持つ。
昭和50年「草笛」(県内の超結社同人誌)に入会ののち同人。
昭和60年「小熊座」(佐藤鬼房主宰)創刊され入会、のち同人。
平成2年句集『祭酒(さいしゅ)』。
岩手県現代俳句協会幹事及び編集長。「宮古俳句研究会」会長。俳句集団「新人会」代表。

「浅き夢」 山口 剛

人日の枕はずせば海の音
使わざる石臼があり春の雪
春の鬱鳥獣戯画に紛れこむ
しゃぼん玉に乗りたくなりぬ失語症
浅き夢杉菜ばかりがよく育つ
体温の庭の紫陽花剪ってきて
城跡の薊に時間盗まれる
蜘蛛の糸たぶん言葉を編んでいる
手つかずの余命おもえり夏椿
海猫の千の羽搏き更衣
踝にうすむらさきの夏の霧
油蟬まっすぐ飛んで淋しい手
花栗や潜水艦の深睡り
天網を繕っている夏燕
鬼百合を離れて言葉燃えだせり
空蟬のなかの暗がり司祭館
梅漬けて母の両手が嘆くなり
シャガールの馬駆けてゆく雲の峰
石段に吃りの雀原爆忌
野菊さわと担がれてゆく縄梯子
石榴ひとつ夜の書斎は孤島なり
船長の土産の美男葛かな
残像の父が花野をわたりゆく
風の間のこの世を覗く種瓢
立冬の二級河川に耳洗う
二階より冬霧となる母の声
たましいの少しずれたる雪雫
今生の梟聞いて飴舐めて
唐辛子賽の河原に風通う
言霊のあふれて冬の雑木山

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。