平成6年度上半期 第43回現代俳句協会賞 中嶋秀子(なかじま・ひでこ) 1936-2017

昭和11年東京生。本名川崎三四子。一男一女の母。
18歳で能村登四郎の句会に出席。先生の紹介で加藤楸邨とその門下の人々を知る。のちか「寒雷」同人、新人賞受賞。
昭和45年「沖」創刊に協力、同人となり結社賞受賞。
昭和38年処女句集『陶の耳飾り』(序金子兜太・森澄雄、跋能村登四郎)出版。この年初めて協会賞候補となる。
昭和59年夫川崎三郎と死別。
昭和61年月刊俳誌「響」創刊。著書共著多数。
日本文藝家協会員。現代俳句協会幹事。NHK学園講師。読売アカデミー講師。
※略歴は受賞時点のものです。

第43回現代俳句協会賞受賞作  中嶋秀子

(つま)の墓ほたるの墓となりて燃ゆ
約束の橋のたもとに苧殻焚く
母を追ふ父の流燈波くらふ
走馬燈まはればあの世めく一間(ひとま)
虹消えて石の仏の大き耳
仏飯におほひかぶさる夏鴉
河骨の鈴をふるはす星揃ふ
霊棚をたたみし跡にこぼれ米
実ハマナス不法投棄の地に結ぶ
金木犀これよりの日々矢の如し
鉦叩ひかえめにして正確に
秋の風鈴聴きつつ自然死を願ふ
町ねむり星と交信花八ツ手
サルビヤの純粋迷ひごころ消ゆ
秋彼岸過ぎていよいよ独りなり
桔梗にあいまいな色なかりけり
引くといふ大事を胸に鶴ねむる
木枯しの落ちゆく先に夫の墓
世をみつめるものの一つに龍の玉
雪催街青むまで鴉鳴く
寒紅を濃く引くおのが愚の始め
もろもろのしがらみ付けて太る牡蛎
初氷日はこはごはと空わたる
綿虫はほとけの匂ひ好きな虫
男なら踏めとばかりに落椿
三日月に添ふ春星の一しずく
抱きしめる仔猫芯までやはらかし
かたつむり黙って墓を守りをり
亀鳴くやうかうかと過ぐ五十代
呱々の声泰山木も一花挙(あ)ぐ
青の宵銀座は奥のふかきとこ
しだれ櫻観音堂を入れて咲く
さはさはと夏来るらし雨も又
梅雨の月皓々と雲寄せつけず
黒揚羽亡き人の魂のせて来よ
すぐ曇る姿見磨く敗戰日
箱庭の添景となる寺に住む
虹からの郵便濡れて縁側に
青田行く新幹線は銀の針
見えぬ枝夜空に張って花火消ゆ
暑といふ字崩れて秋の蝶となる
夜の秋鯉の動きのしきりなり
秋草に捨てられて鳴るオルゴール
月へ行くバスが一台花野発
雲に身を食はるる月の美しき
冬紅葉はさみて句帳まだ白し
浮寝鳥流されそうで流されず
煩悩か叡知か胡桃皺ふかむ
水底を見て来し鳰の眞顔かな
何も無き冬空が生む鳥あまた