平成8年度下半期 第48回受賞者 森下草城子(もりした・そうじょうし)
本名・穣二、昭和8年2月、愛知県生まれ。
昭和28年、「層雲」入会、荻原井泉水先生に師事。
昭和29年、「林苑」入会、太田鴻村先生に師事。
昭和37年、「早蕨」に同人参加、内藤吐天先生の指導を受ける。
昭和41年、「海程」入会、金子兜太先生に師事。
他に俳句同人誌「車座」「螢」「赫」「木」に拠る。
「海程」同人。全国同人会副会長兼同人会事務局長。「木」代表。現代俳句協会幹事。
句集『風炎』『生家』他。
第48回現代俳句協会賞受賞作 森下草城子
山家盆唄踊らぬ奴も白むかな
一村のうすうすといる狐雨
山峡の電燈猪の目玉かな
野鯉追う音でありけり冬の霧
燠吹いておれば出てくる里神楽
山懐蕪も老婆も存在す
なにごともなくて三人冬の畦
風邪の夫婦ぐずぐずといる山の家
母うたた寝水仙ことごとく咲いて
春の空気ごうごうとして桐簞笥
人を焼くけむりも見えて春の山
俳諧や藁を担いで出てゆけり
朝谷の耕人われに燕きて
沢蟹や咀嚼しずかなり山人
八月の一人を洩らしてしまいけり
鮎を焼くけむりの滲みる山の星
人死んでやむなく山の霧がくる
善人や柿を齧ればみな寡黙
扁平も皺もこの世だ山椒魚よ
煩悩の形(なり)をしておる真桑瓜
蚊柱の向こうの村が消えておる
人であることにいきつく大旱
茸山村をけむりと思いおり
頭部大の梨熟したり少年期
山国や鼬振り向き人は笑い
冬苺小鳥啄みわれは摘む
赤裸々に冬日ありけり雑木山
赤い月耕人だれも背を伸ばす
春の水老婆跼むは怖ろしき
山女親しげからだの傍をとおるなり
強かな枝のありけり桃の花
山国の八十八夜の寝息かな
遊行とおもい麦畠通りけり
むかし放蕩青梅を叩くかな
やまかがし美しく川渡りおる
硝子戸の姨捨山がかたちなす
秋の暮老婆の火種美しき
山風のまた亡骸に集まり来る
霜月が野川に辿りついて死ぬ
秋の峠黒牛売られ人は佇ち
山の柿出てゆく影が一つある
山岳も村も眠りは黒かりき
赤石山系かたちをなして冬の村
冬木立人も夕日も膝折りて
信仰や笹子木の間にみえて消えて
山茶花はさざなみなりき祝唄
淡白や金縷梅見にゆく山住まい
生半可な奴の腰だよ春耕す
梨の花夕べあつまる後継者
婆の手を鶏につつかす朝日かな
※略歴は受賞時点のものです。