平成10年度下半期 第52回受賞者 須藤 徹(すどう・とおる)1946~2013
昭和48年以来、芥川賞作家で俳人の多田裕計に師事し、「れもん」に所属、研鑽を積む。
昭和55年、「れもん」終刊。
昭和58年、小川双々子主宰の「地表」に所属、同人。
昭和60年、「地表」賞受賞。
句集『宙の家』、『幻奏録』。評論集『俳句という劇場』。共著に『俳句・イン・ドローイング』『現代俳句パノラマ』『現代俳句ハンドブック』『西東三鬼の世界』ほか。
第52回現代俳句協会賞受賞作 須藤 徹
遮断機に春淀みいる逢魔が時
路地曲がりくる初蝶の美貌かな
月おぼろ空き地に傘の骨刺さり
恋猫の思想の胴の伸び縮み
墓参後は畳を運ぶ春の人
体内の水傾けてガラス切る
晩禱に胴体の下おぼろなり
遠国の蝶薄くする指揮棒は
春寒をしくしくと聴くウォークマン
人体に電流通う花の下
花冷えや山中の鯉動かざる
ふなばたを鶏歩く八十八夜
掌をかさねて冥き海市見る
水中を機械の走る五月かな
夜の三和土麦秋の人匂い立ち
香水へ黙読の脚組直し
厨出て断層へゆく碧揚羽
大地より紙立ち上がる終戦忌
僧笑う厠明かりの空蟬を
老人が鉄を挽きいる木下闇
剃刀に映す拳と炎天と
一髪を聖書にはさみ秋に入る
川幅に灰が舞いおる十三夜
流星へ猫が両手をそろえいて
銃口の位置定まりぬ曼珠沙華
硝煙は月の国境越えてくる
月明の迷彩服の微笑みよ
暗室を出て秋の蝶見にゆけり
アルミ缶捩りて海が遠くなる
排泄の鉄塊光る秋の浜
姉川や夜の郵袋へ木の実降る
ベッドサイドに機関車とまる月の原
秋暑く重機が家を銜えいて
内側の野菊捨てたる男かな
一言を萩に残してドラマー逝く
永遠の月氏を憶う野分前
鯔を釣る遠き友の手感じつつ
とこしえに天心をゆく夜汽車かな
月明きマンホールより鉄の棒
ガラス切る音の軋みに雪降りだす
擦れ違い煙を放つ冬の祖父
山茶花の白を残して鳥立てり
なにゆえに踝曇る福寿草
濁音の男はたらく冬の畑
炎の輪くぐりて虎の闇に消ゆ
幻燈にものいう老婆冬の雨
たましいを蹴りつつ還る冬銀河
水平に雪積む夜はイエーツ読む
濃く淡く棒の立ちおる冬景色
くちびるがぶ厚く走る枯木灘
※略歴は受賞時点のものです。