平成11年度下半期 第54回受賞者 武田 伸一(たけだ・しんいち)
昭和10年秋田県能代市生まれ。
昭和25年、細谷源二の<地の涯に倖せありと来しが雪>などの作品に惹かれ、「氷原帯」に入会。以後、「風」「寒雷」などを経て、昭和37年、金子兜太が創刊した「海程」に参加。初期から人間の表出に努める。
昭和52年、第13回「海程賞」受賞。
著書に句集『武田伸一句集』がある。
第54回現代俳句協会賞受賞作 武田伸一
遠海鳴り母に与(くみ)する枇杷の花
雪暗や味噌蔵が拙宅より大きい
山川のこよなき白鳥日和かな
五頭山(ごず)・飯豊山(いいで)白鳥水に立ち上がる
白鳥なり涙と息の緒こぼすかな
今生という人だかり寒気団
真ん中ににんげんを置き雪降れり
歩かねばたましい古ぶ枯木山
夜の雪絹一枚が挟まって
尻撫でて朝寝楽しも雪の中
ローカル線冬です夫婦に杖二本
脚に標識セイタカシギとして生きる
とんがって子規の横顔浮寝鳥
迫(はさま)川を覚えて白鳥降り来たる
駐車場に迷いて喚く白鳥や
鍵掛けて浅き夢見し小正月
我思わぬゆえに我なし蕪蒸し
堅香子と蝦夷の裔なる馬齢かな
百花にて柩の三分の二埋もれる
旅人は帽子を落とす花薺
木曽の日暮れ田打ちの翁と申すべし
口留番所跡の春田の堅締まり
花見虱と小言がたまり五条町
朝な夕なご近所の花吹雪かな
荒海や左にはにかむ春の家
蕗を煮るふるさといやさかいや奈落
誰か死ぬ大いに粘り蕗の糸
真つ正面に東京があり梅を干す
はつなつのもやもやの長女のこども
カミさんやオクさんが爆ぜ麦の秋
麦の秋ごつんとたくさん膝小僧
ボンネットに野良猫眠る火葬かな
夜の蟬暴走族は飛べません
晩年を華とす僧侶赤楝蛇
高校野球あり国分尼寺より帰る
航跡は立ち上がらない積乱雲
鉦叩家に大黒柱なし
夜神楽のしばしば空に向く顎よ
蛇は穴に尿よりアリナミン匂う
ぼうぼうのぼうの空井戸らーめん屋
敷紅葉寺に徳用マッチあり
大和にあらましかば薫風にすててこ
畝傍山にわれより出でて柿の種
草箒シリウスとすれ違いけり
伊豆の刈田十四五枚もなかるべし
墓に遊ぶ数人釣瓶落としかな
猿梨をこづいて君子豹変す
ご飯うまし月に立山堆(うずたか)し
雁が音や山岳監視はさびしかろ
色鳥来爺さん婆さんぱりっとす
※略歴は受賞時点のものです。