2003年度 第58回受賞者 小林 貴子(こばやし・たかこ)
昭和34年生まれ。長野県飯田市出身。松本市在住。
昭和56年信州大学学生俳句入会。「岳」入会。
昭和57年から平成9年まで「鷹」に在籍。現在「岳」編集長、俳文学会会員。
句集『海市』(昭和52年・牧羊社)『北斗七星』(平成9年・本阿弥書店)。
著書 秀句三五〇選『芸』(平成3年・蝸牛社)などがある。
現代俳句協会会員。
第58回現代俳句協会賞受賞作 小林貴子
山襞に雲のおきざり春祭
死者はこぶ遠き桜の遠き揺れ
薄ら日や滝端の水いそがざる
うかうかと生れ重なれる金亀子
大山蓮華青実棘とも翼とも
海上がり来ればハイビスカスの家
夏惜しむ馬は眉間の旋毛立て
鳥籠に眠りたき夜や木の実降る
パレットの洗ひて真白鶸の森
樹氷林珈琲豆の青くさし
馬鈴薯のころがつて聞く寒念仏
薄氷の伸びゆく先の楔形
花桃や京劇の声みやうみやうと
むらぎものむらむらとせり蜆舟
考へをきちきち組めり春の馬
星生みて空新しき多佳子の忌
全身をみづかきとして萍は
大学に蜈蚣は足をそろへ死す
雨音のはじめは葉音藍浴衣
森林浴にて国籍を問はれたる
三伏は鳥籠に入る心地かな
荒地瓜撲滅隊を結成す
夜鷹鳴き轆轤に七つ同心円
晩涼や粘土の縁を切る弓も
霧の岳エミューの卵魔除とし
ひゆんひゆんと鞭の音して星飛べり
絮飛びて草に王冠残りたる
遠き冬針焼いて刺抜きしこと
赤血球型の枕や避寒宿
マント羽織るときに体を半回転
鎌鼬川久保玲の瘤の服
初山河唇に山二つあり
春は芳し欅は鳥を放ちづめ
春田打腕に蠍のタトウーあり
馬の背のはつかな撓み石鹸玉
鑿井(さくせい)の櫓高かり子供の日
筍の伸ぶるは闇に触るべく
義仲を思へば涼しき草の丈
洞窟に茂れる歯朶ほどの自由
紫蘇揉むと燈台に日の乱反射
燈台に似合ふ紙八手の茂り
流さるる時もひたむき海の蟹
冷し瓜打たれ続けて悟らざり
水澄むやチェロとチェリストもたれ合ひ
森晴れて橅張茸の白し白し
良寛の書は間引菜の如きかな
月仰ぐ月には不老不死の水
山鳥の羽挿す土器や火恋し
レンズ豆皿に敷きつめクリスマス
熊の目の金色透り翌は雪
※受賞者略歴は掲載時点のものです。