2004年度 第59回受賞者 田村 正義(たむら・まさよし)

昭和13年、青森県出身。八戸市在住。

昭和33年「北鈴」に入会。昭和36年、豊山千蔭のすすめで「寒雷」入会。昭和37年「暖鳥」入会。

昭和38年横浜市に転勤、加藤楸邨膝下で研鑽また「寒雷漠の会」で櫻井博道、川崎展宏、中拓夫等と森澄雄の指導を受ける。横浜寒雷で古沢太穂、赤城さかえ、和知喜八、田川飛旅子等の指導を受ける。現在「寒雷」「埠頭」同人。「薫風」参与。
句集『水輪』他。
現代俳句協会会員。

第59回現代俳句協会賞受賞作   田村 正義

ごろごろと石置く胸の中の夏
白玉のやうな句を詠む媼かな
次の間に昼寝を誘ふ枕あり
曲り屋に入りて涼しき闇に会ふ
あるときは自愛のこゑや法師蟬
羅の僧の入りゆく囲碁倶楽部
ひとの田も眺めて畦の草を刈る
雨去つて稲は出穂の香を濃くす
ふんはりと母が座に着く栗の飯
どこからか見られ地球の水澄めり
本流を揉まれて渉る小望月
満月や下戸にも烏賊の一夜干し
真つ黒な石を祀りて陸奥の秋
木の実見え水底もまた快晴なり
稲刈つて日暮の顔がざらざらす
鮭撲つを夢見るごとく見てゐたり
ほちやれ鮭さらさらと砂流れをり
死神の杖となる木も紅葉す
念仏のやうな耳鳴り秋ふかむ
貰ひしか預かりゐしか花梨の実
立冬の空に出てゆく欠伸かな
霜柱ざつくと踏まれ男の死
龍の玉齋場しづかに混みゐたり
炉の灰を均らし堂々めぐりなり
さぐり当つ埋火鳥の目のごとし
老いてゆく人の不思議や蕪蒸
鶏頭を焚く鶏頭を抜きし穴
ほら吹きの漢のつどふ浜焚火
悪相の柚子に囲まれ長湯せり
うかつにも厠にゐたる年の鐘
賑やかに雪の来てゐる三日かな
さえざえと枕の中の手毬唄
流鏑馬の割りたる的を頂戴す
雪へ出て牛の骨格四角なり
翔ぶものの寒月光のほかあらず
寒濤を前の胡座居鰻食ふ
鷹鳩と化して蝦夷の湯にゐたり
雪消えて家の奥まで届くこゑ
真つ青な藁沓を吊るえぶり宿
鴨引きしあとの漣月夜かな
軍鶏を飼ふ籠あをあをと花の下
目の下の黒子春蟬聞いてをり
桃の花狂へば心やすからむ
芽吹きたる桑の木瘤の笑ひ皺
田を植ゑて村中どこも水浸し
大いなる月の来てゐる余り苗
一揆道越えてとどきし鮎の籠
桐咲いて朝餉の前の仏ごと
蕗採りの鎌でたしかむ熊の糞
蛇衣を脱いで水辺に烟りをり

※受賞者略歴は掲載時点のものです。