2019年度 第74回受賞者 佐怒賀正美(さぬか・まさみ)

(本名同じ)
・1956年(昭和31年)、茨城県生まれ。63歳。
・学生時代「東大学生俳句会」にて、山口青邨・小佐田哲男・有馬朗人の指導を受ける。
・1978年(昭和53年)、「秋」に入会、石原八束(のちに文挾夫佐恵)に師事。
・1990年(平成2年)、「天為」(主宰有馬朗人)創刊から参加。
・2006年(平成18年)~現在、「秋」主宰、「天為」特別同人。
・現代俳句協会副幹事長・広報部長、東京都区現代俳句協会副会長、全国俳誌協会顧問。
・専修大学文学部客員教授(俳句創作講座)。日本文藝家協会、日本ペンクラブ各会員。

第1句集『意中の湖』(1998)・第2句集『光塵』(1996)・第3句集『青こだま』(2000)・第4句集『椨(たぶ)の木』(2003)・第5句集『悪食の獏』(2008)(以上、角川書店刊)・第6句集『天樹』(2012)(現代俳句協会刊)・第7句集『無二』(2018)(ふらんす堂刊)

 

『無二』自選五十句   佐怒賀正美

蟻の巣の迷路やここも自転中

大花火首都は眼底さらしたる

カレンダー裏の光沢虫すだく

金色をひと刷け秋の木靴かな

飛入りのやうに斜めに笑ひ茸

アフリカの顎骨あたり飛ぶ二月

星芒や砂漠をすべる春の蛇

灼岩が立つマンデラの国の端

仮面売る暑き砂漠に囲まれて

カーニバル花火に椰子の影浮かぶ

ココナツ水旨しボサノバ流す浜

涼しさや入港審査官と朝餉なす

ひかがみに銀座の微雨や猫の妻

宇宙よりうねり立ちたる千歳藤

空豆にファラオの眉の如きもの

八束忌や磯ひよどりの三世(さんぜ)ごゑ

核の世の海の獏なりあめふらし

栗食うてぐだぐだ言うて嫁げさう

天近き蜜柑に負けず蝶ひかる

プルーストは籠り私はサンタする

私はティッシュ微笑返しの聖夜

初空やましら渡りは虚もつかみ

白梅や髪なびかせて逃ぐる鬼

宇宙地球草餅いびつ寧らけし

箱庭に幽霊の出る闇つくる

新涼や詩書に仕上がる紙ロール

眼球の奥のつながり水温む

春めくや石庭に石生まれさう

次の世の竹林明かり春時雨

龍天に登り弾道見極めむ

かげろふや肉体滲みだす巨石

黄金週間そして産道抜けて世に

ごきぶりの仮死より覚めて頼りきぬ

涼しさや溺れかけつつ世に出づる

句碑のぼる舟虫無我にして一気

八方を愛でつつ星河下りかな

蟄虫坏戸(ちつちゆうとをふさぐ)虹の欠片は入れてある

テノールの声の肉づく水の秋

無二の世を落葉の孔(あな)の網目越し

肉体の柱の見ゆるコートかな

マフラーの長きが散らす宇宙塵

もぞもぞと冬眠かさこそと万骨

につぽんが雪のエクレア赤子添(ぞ)へ

赤道を越ゆるに挙(こぞ)る鯨波かな

聖獣悪魔バリに舞ふなり跣なる

鯤(こん)ほどに皇居より伸び花の雲

銀河鉄道どの車窓にも桜餅

聖五月眠るには小さな空でいい

でで虫をちりばめ星空めく行路

あめんぼの息に彩色してみたし