昭和58年度 第1回現代俳句協会新人賞 宮入 聖(みやいり・ひじり)
「豈」「鷺」同人
「螢」 宮入 聖
恋すれば人体無限夏衣
夢であれかし野の一点となる日傘
飯むすぶ音しゃっくりに似たる夏
降霊の花吹いてゐる百日紅
蛇捕りやいつ蛇に逢ふ夏の午後
涼しさに来てみし墓は殖ゑもせず
池に余る鯉の背鰭も山河かな
樹を愛し胡桃の花のへんぽんと
滴るとおもへど水気なき晩鐘
暑き日をつまらなくゐる叔母の家
暗黒へ煮こぼれやまず梅雨の花
さびしさに鳥も飛び込む夏の汽車
死火山のほとり盲の鬼やんま
母と来て妹と帰る螢かな
朝の霧魚の臓ぬく鳥の妻
背泳ぎで友皆んな去る夏の闇
空間に遺影のほしき夏座敷
外風呂へひらりと女烏瓜
向日葵を鏡にうつし遊びけり
夏山家よくみれば簞笥搖れゐたる
夏雲の日日みだらなる高さかな
夏のくれ死は胎内を恋ふるかな
いっぺんに瓦のきゆる蟬時雨
流星や蛇も家長も頤勁し
生殖の夏経て爪ののびるかな
腐らずに母も豆腐も夏の底
国道の合歓に火を点け他界かな
にんげんを花の木となす黒揚羽
ごおごおと蟬鳴り乞食くる時刻
きんいろに亡き子がゐたり茄子の馬
※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。