昭和58年度 第1回現代俳句協会新人賞 星野昌彦(ほしの・まさひこ)

昭和30年「早蕨」「林苑」同人。
昭和58年「橘」同人。

第1回現代俳句協会新人賞受賞作品  星野昌彦

自殺か他殺か冬の灯へ肉うどん熱し
唇濡らす硝子器の蛇少し動き
侏儒の言葉蛾は金粉を浴びて死ぬ
鎌倉へ灯をともしゆく五月闇
沖へ軍艦髭垂直にきりぎりす
有明けの月へ草嚙む猫がゐて
青い信濃へ馬あたたかな雨となり
紫陽花に雨ふるでで虫の呪言
雨やめば紺極まりし花菖蒲
啓蟄の闇人形の黒髪殖え
俳諧や山吹色に蛙は浮き
笛吹けば麦秋かはく菓子袋
蝶の図鑑鉛筆の芯折れ易し
榛の木の繁る車窓の鱒鮨冷え
蕎麦の花石地蔵やや傾けり
長く垂らして梨の皮剥く母系家族
鯉群れてをり鬼灯を鳴らしてをり
曇る梢へ臓器かはきて蟬鳴けり
多聞天口開けしまま蟬しぐれ
蟬しぐれ終日翳る能舞台
蟬しぐれ断つ少年ら水にもぐり
母も屈みて無花果を食ふ舌びら荒れ
水際へ萩の花散るかくれんぼ
コスモスに風空瓶を少年吹き
仏の飯乾きて蠅は疲れたり
冬日輪眩し鸚鵡の嘴割れ
帽子深くかむり冬の海見飽きたり
将門記落日へ葱刻みたる
雑木林へ鳥なだれ込む少年燃え
白梅や影連れて往く父の旅

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。