昭和63年度　第6回現代俳句協会新人賞　田尻睦子（たじり・むつこ）

昭和14年6月生。
昭和55年ごろより作句。
昭和57年「水鳥」入会。
昭和59年会員誌「寒潮」入会。
昭和60年現代俳句全国大会佳作入賞。
昭和60年水鳥「新樹賞」次席。
昭和61年現代俳句全国大会秀逸賞。
昭和62年現代俳句全国大会佳作入賞。
昭和63年現代俳句全国大会佳作入賞。水鳥「新鋭賞」受賞。
現代俳句協会会員。

「風紋」　田尻睦子

ことばまだ生まれる前の春の土
蟹を食べ胃のなか雪が降っている
かがみから白鳥一羽こぼれたり
花ふぶき沖へ沖へと舞踏靴（トウシューズ）
スカートの襞より春の濤がしら
春雷のひとつ居据わるふとん部屋
青麦やあまたのなかの崖っ淵
六月の森に怒髪のほとけたち
ひとづまは海のひびきのレース編
ももの種旧街道があらわれる
いっぴきは氷河をわたりきし螢
さんさんと蟻降るモノクロ写真かな
ブラジャーAカップ白夜の猫でいる
人さしゆび夏の蓬になるけはい
無花果たべ胸からけむりのようなもの
いなびかりわたしのなかに夜と昼
絶巓をひとり歩きの曼珠沙華
秋の卓あかい鯨とすれちがう
真夜中のすすき原ゆく曲馬団
秋風やうろこにすこし肉のいろ
青絹のへびを垂らして母ねむる
海荒れるとおく阿修羅の髪枯れて
風邪神やまくらのなかを舟とおる
守り袋から出雲のくにへ七曲がり
海鳴りの鱈の目玉を啜らんか
こがらしのゆびいっぽんいっぽん発火
絵ろうそく神のひとりは着ぶくれて
切干嚙む四十ワットの仲間かな
男帯たぐれば冬のしんきろう
風紋の声のとどきしかがみ餅

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。