平成2年度 第8回現代俳句協会新人賞 鈴木紀子(すずき・のりこ)
昭和8年10月東京生まれ。
昭和50年「紫」に入会。
昭和55年、新鋭賞。
昭和59年、作品賞。
平成元年、星雲賞。
「紫」同人。63年、句集『風の樹』。
昭和56年、第18回現代俳句協会全国大会賞。63年第6回現代俳句協会新人賞佳作。平成元年、第26回現代俳句協会全国大会賞佳作。57年より現代俳句協会会員。
「桃の空」 鈴木紀子
雁渡る枕の籾をこぼしつつ
黄泉からの電話つながる芋月夜
星屑を掬いて口をすすぎけり
高鳴るは野より戻りし猫の鈴
牡蠣割ってサンタマリアを顕たしめよ
口渇くお彼岸近いだけなのに
雲雀より先に落ちくる喉仏
揚雲雀姉を迎えに行ったきり
羽化思ううなじ痒くて淋しくて
くちびるは金魚も二枚花明り
ユダに肖る上目使いの黄水仙
幽谷の橋を支えている朧
ファール・フライにはじまる春の訣れかな
半夏生接吻像は濡れしまま
羽抜鶏ずぶ濡れのいま神の貌
桃の空咬み傷いまだ消えざりき
骨壺がいい音たてる夏の朝
よそながら柱もそよぐ油照り
男爵という薯洗う終戦日
産まれたくない子が鉄砲百合らしい
草いきれあの世の川の匂いとも
潜水艦ひそかに浮かぶ信長忌
夏永遠に棒高跳びの君なりき
贅肉のしみじみ揺るる霧の中
冬将軍空罐蹴って来たるかな
すぐけぶる身をもてあます雪女
凩にどの鍵穴も光る夜だ
天網は疎なるや椿また椿
孵らざる卵の中も葛の秋
方丈記菊焚く空はありにけり
※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。