平成7年度 第13回現代俳句協会新人賞 五島高資(ごとう・たかとし)

昭和57年長崎新聞ジュニア俳壇年間優秀賞。
昭和63年より「土曜」所属。
平成2年全国学生俳句大会大学生の部推薦大賞兼文部大臣奨励賞、同年現代俳句協会会員。
平成3年「土曜」新人賞。
平成5年および平成6年現代俳句協会新人賞佳作。
共著『現代俳句と私性』『現代俳句と読み』『現代俳句ハンドブック』など。
合同句集『櫂』『そして』。

「対馬暖流」  五島高資

ぬばたまの闇夜に滑り込む対馬
帰郷後を畳の上にゆれている
ジェット機で飛ぶ精神とかしわ餅
五階から蘇鉄まる見え間氷期
籐椅子のひとまわりほど惚けおり
半島が溺れつつあり濃紫陽花
耳鳴りにイルカ近づく午睡かな
踵から流され芋の花ざかり
ガジュマルを祀り瞼の裏に入る
背骨透くように禁漁区を泳ぐ
飛魚の本気に赫赫たる日輪
暖流へ海人の涙痕まぎれ込む
トマト食べ段々畑にて果てる
爪立って日矢にからまる楠や腕
断崖の火星に触れる沙羅の花
はまおもとからパライゾが見えている
右手より熔かす入り日の日本海
蛸壺に卑弥呼眠れぬ闇夜あり
檜扇の花びら海を出たばかり
伏竜に見つかりそうな桃の種
たくさんのやがてがあるよ紅葉山
紅葉やら言葉やら降る溺れ谷
コスモスのよろめく満月からの風
月面が眼科の闇に吹きすさぶ
海峡を鮫の動悸と渡るなり
あらたまのバックミラーにあふれたり
山猫がうつつをぬかす落椿
間脳に耶蘇の島あり鐘かすむ
春の雲になれず発電所のけむり
飛べそうな気がする永き日の岬

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。