平成9年度 第15回現代俳句協会新人賞 渋川京子(しぶかわ・きょうこ)

昭和9年東京生まれ。
昭和48年頃から俳句を始める。「寒雷」、「響焰」にて指導をうけ、のち退会。
平成3年「面」入会、のち同人。
平成7年「頂点」、「広軌」同人参加。
平成8年「國」入会。
10周年記念・東京都区現代俳句協会賞佳作入選。
現代俳句協会会員。

「手にのせて」  渋川京子

夜が二つ出逢えり朱欒手にのせて
雛飾り川の満ち引き映る家
身に鎮めおく大言海とレモン
しあわせな木の実まざりし鳥の糞
朝野分大きな他郷のなかにいる
破れ壺の自由なかたち天の川
秋の波無帽の父をさかのぼる
冬瓜のほかは眠らせ稿を継ぐ
点滴のようにふるえて花すすき
鶏頭の朱が行間におさまらぬ
海鳴りのこもる夏帯ほどきけり
刈萱を投げ入れ壺をくつろがす
人の顔大きく鬼灯市のなか
生家いま波切っている凌霄花
夏わらび風は少年見逃さず
夢見ては太りももいろ火取虫
春蟬や繫がりたがる島と島
鳴り止まぬ耳から蝶をつまみ出す
夜の秋やわらかそうな反古の稿
偶然が駆けつけてくる夏帽子
流木を何の尾とせん春夕焼
同齢の木に陽炎の波がしら
表札と守宮傾ぎつつ潤む
芦を焼き振子時計の下に寝る
はればれと布団の中は流れおり
露月夜ふたり遊びのひとりごと
流氷の声が近づく寝入り際
眼鏡拭く千の引鳥投影し
寒林を抜けみずみずしき空腹
昼花火帰り続ける野がありて

※略歴は受賞当時のもの。
平成11年までは「現代俳句協会新人賞」。応募資格に年齢制限がない。