平成12年度 第18回現代俳句新人賞 吉川 真実(よしかわ・まみ)
昭和36(1961)年、北海道遠軽町生れ。
平成3(1991)年より句作を始め、「寒雷」入会。
その後、「炎環」を経て、同9(1997)年「海程」入会。
同10(1998)年現代俳句中新田未来賞スウェーデン賞受賞。
同12(2000)年「海程」新人賞受賞。
著書:句集『厄呼』
「白き一日」 吉川真実
人疎むさくら流れていく中に
鏡から糸遊生まる別れの日
兄なくて木馬揺すりし春の夕
傘させば胎内回帰の白さかな
青葉騒記憶は吹かれている紙片
はつなつの月光溜めて我はフラスコ
眠れない夜に睡蓮しのびよる
柩めくわが部屋であり明易し
白すぎる一日季節なき窓を拭く
文鳥や秘密を忘れてしまいけり
木洩れ陽はぎこちなく止むオルゴール
百合抱き水のように暮れている
ほうたるに未生の兄の匂いせり
燠火わが中に瞬く海の旅
雲よりも無垢なるは苦か鷗よ
一脚の木椅子鷗にならんとす
われ海に立ちて夏の墓標かな
夏痩せて雲の航海見ておりぬ
貝拾い石拾いわが骨軋む
石拾うことも晩夏の黙示録
草かげろう指に止まらす旅の果て
痩せてゆく父なり白さるすべり燃え
雨音に似し手花火を渡しけり
灯籠祭故郷はらはらこぼれゆく
自転車も鉱石ラジオも銀河なり
父母とわれ言葉少なき星月夜
水鳥を見て少女達消失す
空白を病と思う冬林檎
脳を病む父と凍鶴見てしまう
耳底に貧しき獣棲む霜夜
※略歴は受賞時点のものです。